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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第三十七話 看板、新調します

「なあ、この看板、そろそろヤバない?」


 劇場前を通りかかった時、あたしは、ふと、入り口の看板を見上げて、そう漏らした。


 長年の風雨にさらされ、文字はところどころ剥げ落ち、「銀月座」という名前も、今や「銀 座」くらいにしか読めなくなっている。


「まるで、銀座だけの謎の高級劇団みたいな見え方しとるな」



 その日の稽古前、あたしは、バロウに相談を持ちかけた。


「バロウ、看板、新調した方がええんちゃう」


「言われてみれば、だいぶ剥げてきたな」


「銀座だけ残っとるの、シュールすぎるやろ」


「気づいてなかったよ、そこまでとは」



 劇団員全員で、新しい看板のデザインを考えることになった。


「シンプルに、劇団名だけでいいと思います」


 アメリアが、無難な案を出した。


「もっと壮大にせなあかんて! 劇団の紋章を銀色に光らせて、文字は夜空の星がきらめいてるみたいな感じにしたいんよ!」


 あたしが、そう提案すると、ガスが、すかさず口を挟んだ。


「予算オーバーだ。デザイナーに発注する予算なんてないし、そんな看板、いくらすると思ってるんだ」


「まだ金額も言うてへんのに!」


「お前の『派手に』は、大抵、予算オーバーする」


「それ、実績に基づく発言やから、否定できひんのが悔しいわ」



「私、絵を描くの得意なので、デザイン案、描いてみました!」


 ノエルが、嬉々として、自作のデザイン案を見せてきた。


 だが、その絵は、なぜか、劇団の紋章のはずが、微妙に不気味な生き物のような仕上がりになっていた。


「これ、なんの生き物や?」


「銀月をイメージした、神秘的な生き物のつもりです……」


「神秘の前に、まず、何の生き物か分かるようにしような」


「うっ」


「どこのダンジョンの魔物かと思ったわ。こんなん冒険者が討伐しに来るで」


「ひどい!」



「私が描きましょうか」


 ミアが、そう申し出てきた。


「ミア、絵、描けるんか」


「別に、得意ってわけじゃないですけど。学校で美術専攻してたので、少しくらいは」


 そう言いながらも、ミアが描いた案は、思いのほか、シンプルで洗練されたものだった。


「これ、めっちゃセンスええやん!」


「べ、別に、普通です」


「謙遜すな、普通に上手いわ、これ」


「そんなに褒めても、何も出ませんから」


 だが、その口ぶりとは裏腹に、ミアは、少し嬉しそうな顔をしていた。



 結局、看板のデザインは、ミアの案を軸に、多少の装飾を加えたものに決まった。


「これで、しばらくは、銀座だけの謎の劇団って言われんで済むな」


「それ言ってるの、ヴィクトリアさんだけだと思います」


 ノエルが、そう苦笑した。


 数日後、新しい看板が、劇場の入り口に掲げられた。


「銀月座」の文字が、久しぶりに、くっきりと読める形で戻ってきた。


「ええ感じやんか」


 あたしは、その看板を見上げながら、なんとなく、清々しい気持ちになっていた。


 もっとも、この看板も、また何年後かには、同じように剥げていくのだろうと思うと、少しだけ、時の流れの早さを感じずにはいられなかった。

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