第三十六話 合同稽古
「今度、金翼座と、合同稽古やることになったぞ」
稽古前、バロウが、そう告げた。
「え、なんでまた急に」
「セレナさんの方から、提案があってな。お互いの劇団、刺激し合えたらいいって」
「金フクが、そんなこと言い出したんか」
あたしは、少し意外な気持ちになった。
*
当日、金翼座から来たのは、セレナと、その後輩らしき数名だった。
「今日は、よろしくお願いしますわ、ホホホ」
「よろしくな、きん……じゃなくて、セレナ」
「今、金フクって言いかけたわね」
「気のせいや」
*
合同稽古が始まると、両劇団の演技スタイルの違いが、すぐに浮き彫りになった。
「はい、では、この場面、感情を込めて」
セレナの後輩が、上品に、抑えた演技を見せる。
「愛とは、かくも残酷なものね……」
あたしも、同じ台詞を、いつも通り、思い切り感情を込めて演じた。
「セリフ噛んでるぞー!」
稽古場にいたノエルが、いつもの調子で、そうヤジを飛ばしてきた。
「噛んでへんわ!誰がやねん!」
思わず、いつもの調子で切り返してしまう。
金翼座の面々が、その様子を、ぽかんとした顔で見ていた。
「……こういう感じなのね、いつも」
セレナが、苦笑しながら、そう呟いた。
「まあ、これがうちのスタイルやからな」
*
休憩中、アメリアが、セレナに話しかけていた。
「セレナさんの劇団、統率取れてて素敵ですね」
「ありがとう。でも、正直、ヴィクトリアさんの劇団の、あの自由な空気、羨ましいところもありますのよ」
「羨ましい、ですか」
「うちは、格式を重んじる分、みんな、どこか肩肘張ってるところがあって」
その話を、少し離れた場所で聞いていたあたしは、思わず口を挟んだ。
「肩肘張ってるって、まるで、正装したまま布団で寝とるような窮屈さやな」
「その例え、微妙に的確で怖いですわ」
「怖がらんでええ、褒め言葉やから」
「褒め言葉になってます? それ」
*
その日の稽古の終わり、ノエルが、金翼座の後輩と、何やら話し込んでいるのを見かけた。
「あの人、いつもあんな感じなんですか」
金翼座の後輩が、あたしを指差しながら、そう尋ねている。
「あんな感じです。慣れると、癖になりますけど」
ノエルが、そう答えると、金翼座の後輩は、少し考えるような顔をした。
「なんか、今日のセレナさん、いつもよりのびのびしてた気がします」
「そうなんですか?」
「普段は、もっと厳しくて、妥協がなくて。正直、こっちも気を抜けない空気なんですけど」
「へえ」
「たまに、こういう場があると、セレナさんにとっても、何か得るものがあるのかもしれませんね」
その言葉を、少し離れた場所で聞いていたあたしは、内心、ちょっとした満足感を覚えていた。
(せやろ。あたしといる時くらい、息抜きしてもええんやで)
*
合同稽古を終え、セレナが、帰り際、あたしにそっと近づいてきた。
「今日は、楽しかったですわ」
「あたしもや。金翼座の子ら、みんな真面目でええ子らやな」
「また、機会があれば」
「おう。今度は、うちの劇団員にも、もっと胸張ってもらわなあかんな」
セレナは、それを聞いて、小さく笑った。
「ヴィクトリアさんといると、肩の力が抜けますわ」
「それ、ホホホなしで言うとるやんか」
「あら、失礼、ホホホ」
あたしは、その取ってつけたような笑い方に、思わず突っ込みそうになったが、やめておくことにした。




