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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第三十六話 合同稽古

「今度、金翼座と、合同稽古やることになったぞ」


 稽古前、バロウが、そう告げた。


「え、なんでまた急に」


「セレナさんの方から、提案があってな。お互いの劇団、刺激し合えたらいいって」


「金フクが、そんなこと言い出したんか」


 あたしは、少し意外な気持ちになった。



 当日、金翼座から来たのは、セレナと、その後輩らしき数名だった。


「今日は、よろしくお願いしますわ、ホホホ」


「よろしくな、きん……じゃなくて、セレナ」


「今、金フクって言いかけたわね」


「気のせいや」



 合同稽古が始まると、両劇団の演技スタイルの違いが、すぐに浮き彫りになった。


「はい、では、この場面、感情を込めて」


 セレナの後輩が、上品に、抑えた演技を見せる。


「愛とは、かくも残酷なものね……」


 あたしも、同じ台詞を、いつも通り、思い切り感情を込めて演じた。


「セリフ噛んでるぞー!」


 稽古場にいたノエルが、いつもの調子で、そうヤジを飛ばしてきた。


「噛んでへんわ!誰がやねん!」


 思わず、いつもの調子で切り返してしまう。


 金翼座の面々が、その様子を、ぽかんとした顔で見ていた。


「……こういう感じなのね、いつも」


 セレナが、苦笑しながら、そう呟いた。


「まあ、これがうちのスタイルやからな」



 休憩中、アメリアが、セレナに話しかけていた。


「セレナさんの劇団、統率取れてて素敵ですね」


「ありがとう。でも、正直、ヴィクトリアさんの劇団の、あの自由な空気、羨ましいところもありますのよ」


「羨ましい、ですか」


「うちは、格式を重んじる分、みんな、どこか肩肘張ってるところがあって」


 その話を、少し離れた場所で聞いていたあたしは、思わず口を挟んだ。


「肩肘張ってるって、まるで、正装したまま布団で寝とるような窮屈さやな」


「その例え、微妙に的確で怖いですわ」


「怖がらんでええ、褒め言葉やから」


「褒め言葉になってます? それ」



 その日の稽古の終わり、ノエルが、金翼座の後輩と、何やら話し込んでいるのを見かけた。


「あの人、いつもあんな感じなんですか」


 金翼座の後輩が、あたしを指差しながら、そう尋ねている。


「あんな感じです。慣れると、癖になりますけど」


 ノエルが、そう答えると、金翼座の後輩は、少し考えるような顔をした。


「なんか、今日のセレナさん、いつもよりのびのびしてた気がします」


「そうなんですか?」


「普段は、もっと厳しくて、妥協がなくて。正直、こっちも気を抜けない空気なんですけど」


「へえ」


「たまに、こういう場があると、セレナさんにとっても、何か得るものがあるのかもしれませんね」


 その言葉を、少し離れた場所で聞いていたあたしは、内心、ちょっとした満足感を覚えていた。


(せやろ。あたしといる時くらい、息抜きしてもええんやで)



 合同稽古を終え、セレナが、帰り際、あたしにそっと近づいてきた。


「今日は、楽しかったですわ」


「あたしもや。金翼座の子ら、みんな真面目でええ子らやな」


「また、機会があれば」


「おう。今度は、うちの劇団員にも、もっと胸張ってもらわなあかんな」


 セレナは、それを聞いて、小さく笑った。


「ヴィクトリアさんといると、肩の力が抜けますわ」


「それ、ホホホなしで言うとるやんか」


「あら、失礼、ホホホ」


 あたしは、その取ってつけたような笑い方に、思わず突っ込みそうになったが、やめておくことにした。

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