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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第三十五話 先輩、頑張る

「ミアさん、この動き、私も最初苦手だったから、一緒に練習しよ!」


 稽古場で、ノエルが、ミアに、そう明るく声をかけていた。


「べ、別に、一人でできますから」


「そう言わずに! 先輩として、ちゃんと教えたいから!」


 あたしは、その様子を、少し離れた場所から、興味深く見守っていた。


(ノエルも、いつの間にか、先輩ヅラするようになったんやな)



「ノエル先輩、その動き方、なんか違う気がします」


「え、そうかな。もう一回、見本見せるね」


「もういいです、自分でやります」


「そんな、遠慮しないで」


「遠慮じゃなくて、単純にノエル先輩の教え方が下手なだけです」


「うっ」


 ノエルが、思いのほか的確な指摘に、少しよろめいた。



 休憩中、あたしは、思わず、口を挟んでしまった。


「ノエル、そんな時は、こう言い返すの。『あなたも最初は下手だったでしょ』って」


「そんな、直接的なこと言えないですよ」


「なんでや。的確な例えで返すのが、一番効くんやで」


「ヴィクトリアさんの真似は、私には無理です……」


「まるで、初心者にいきなり『黄金の後方宙返り台詞回し』教えようとする指導者やな、あたし」


「なんですか、その必殺技みたいな名前」



 数日後、ミアが、珍しく、自分から相談を持ちかけてきた。


「あの、ノエル先輩の言ってた発声法、もう一回、教えてもらえますか」


「え、いいの?」


「べ、別に、他に聞く人いないだけです」


「嬉しい! もちろん教えるよ!」


 ノエルが、嬉しそうに、丁寧に教え始めた。ミアは、口では文句を言いながらも、素直に、その指導を受け入れていた。



 その様子を見て、あたしは、少し感慨深い気持ちになった。


「なんか、先輩後輩の絆、育ってきとるやんか」


「絆とか、大げさです」


 ミアが、すかさずそう否定した。


「いや、大げさやないやろ。この前まで、あんな刺々しかったのに」


「刺々しくなんかありません」


「うちのツンデレラは今日も絶好調やわ」


「変なあだ名つけないでください!」



 その日の帰り際、ノエルが、あたしに、こっそり耳打ちしてきた。


「ミアさん、最近、少しずつ心開いてくれてる気がします」


「せやろな。ノエルの根気強さの勝利やで」


「ヴィクトリアさんのおかげでもありますよ。最初に、あの子の扱い方、教えてくれたので」


「あたしは、何も教えてへんけどな」


「いえ、背中で教えてくれてます、色々」


「背中で語るとか、まるで無言で歩き方だけ見せてくる、謎の武道家やんか」


 あたしは、そう突っ込みながらも、まんざらでもない気持ちで、稽古場を後にした。


 銀月座の先輩後輩関係は、今日も、それぞれのやり方で、少しずつ育っているようだった。

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