第三十四話 バロウの十五年
「最近、ノエルは大役任されるし、ミアも入ってくるし。うちの劇団、賑やかになってきたな」
稽古終わり、あたしは、しみじみとそう漏らした。
「そうだな」
バロウが、少し感慨深そうな顔で頷いた。
「なあ、バロウ、銀月座立ち上げた時のこと、もっと詳しく聞かせてくれへん?」
「今更か」
「今更やから、聞きたいんよ」
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「立ち上げた頃は、劇団員、俺入れて十人だったよ」
「十人? 今の三分の一くらいやんか」
「そう。舞台裏の手伝いも、客の呼び込みも、全部、自分らでやってた」
「まるで、こぢんまりした商店くらいの規模感やな」
「まさにそんな感じだったよ」
*
「最初の五年くらいは、客もろくに入らなくてな。閑古鳥どころか、鳥すらいなかった」
「鳥すらいないて、それもう無音の世界やんか」
「静かなもんだったよ、本当に」
「よう続けられたな、それで」
「意地だな。他にやることもなかったし」
あたしは、少し笑ってしまった。
「消去法で続いてた劇団て、なかなか渋いエピソードやな」
「否定はしない」
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「潮目が変わったのは、お前が入ってきてからって、前にも言ったよな」
「言うてたな」
「あの時の変化、俺の中じゃ、ちょっとした事件だったよ」
「事件て、まるであたし、劇団史に残る珍事件みたいな扱いやんか」
「そうとも言うな」
「否定してくれや、そこは!」
*
「今のノエルやミアを見てると、劇団も、随分大きくなったなって思うよ」
「せやな。あたしが入った頃なんて、まだこぢんまりしてたもんな」
「お前が入った頃も、もう十分賑やかだったけどな」
「ほな、今はもっと賑やからってことか」
「うるさいくらいにな」
あたしは、少し誇らしい気持ちになった。
「まあ、これからも、うるさいくらい賑やかにしたるわ」
「それは頼もしいような、恐ろしいような話だな」
*
「なあ、バロウ」
あたしは、最後に、少し真面目な調子で尋ねた。
「十五年前のバロウと、今のバロウ、どっちが幸せなん」
バロウは、少し考えるような間を置いてから、答えた。
「今の方が、断然幸せだよ」
「そうか」
「ただし、お前のせいで、胃薬の消費量だけは、当時の三倍になったけどな」
「それ、幸せの代償として、ちょっと生々しすぎるやろ!」
あたしがそう突っ込むと、バロウは、珍しく声を上げて笑った。
その笑い声を聞きながら、あたしは、この十五年の重みと、その先に自分たちがいるという事実を、少しだけ、噛み締めていた。




