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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第三十四話 バロウの十五年

「最近、ノエルは大役任されるし、ミアも入ってくるし。うちの劇団、賑やかになってきたな」


 稽古終わり、あたしは、しみじみとそう漏らした。


「そうだな」


 バロウが、少し感慨深そうな顔で頷いた。


「なあ、バロウ、銀月座立ち上げた時のこと、もっと詳しく聞かせてくれへん?」


「今更か」


「今更やから、聞きたいんよ」



「立ち上げた頃は、劇団員、俺入れて十人だったよ」


「十人? 今の三分の一くらいやんか」


「そう。舞台裏の手伝いも、客の呼び込みも、全部、自分らでやってた」


「まるで、こぢんまりした商店くらいの規模感やな」


「まさにそんな感じだったよ」



「最初の五年くらいは、客もろくに入らなくてな。閑古鳥どころか、鳥すらいなかった」


「鳥すらいないて、それもう無音の世界やんか」


「静かなもんだったよ、本当に」


「よう続けられたな、それで」


「意地だな。他にやることもなかったし」


 あたしは、少し笑ってしまった。


「消去法で続いてた劇団て、なかなか渋いエピソードやな」


「否定はしない」



「潮目が変わったのは、お前が入ってきてからって、前にも言ったよな」


「言うてたな」


「あの時の変化、俺の中じゃ、ちょっとした事件だったよ」


「事件て、まるであたし、劇団史に残る珍事件みたいな扱いやんか」


「そうとも言うな」


「否定してくれや、そこは!」



「今のノエルやミアを見てると、劇団も、随分大きくなったなって思うよ」


「せやな。あたしが入った頃なんて、まだこぢんまりしてたもんな」


「お前が入った頃も、もう十分賑やかだったけどな」


「ほな、今はもっと賑やからってことか」


「うるさいくらいにな」


 あたしは、少し誇らしい気持ちになった。


「まあ、これからも、うるさいくらい賑やかにしたるわ」


「それは頼もしいような、恐ろしいような話だな」



「なあ、バロウ」


 あたしは、最後に、少し真面目な調子で尋ねた。


「十五年前のバロウと、今のバロウ、どっちが幸せなん」


 バロウは、少し考えるような間を置いてから、答えた。


「今の方が、断然幸せだよ」


「そうか」


「ただし、お前のせいで、胃薬の消費量だけは、当時の三倍になったけどな」


「それ、幸せの代償として、ちょっと生々しすぎるやろ!」


 あたしがそう突っ込むと、バロウは、珍しく声を上げて笑った。


 その笑い声を聞きながら、あたしは、この十五年の重みと、その先に自分たちがいるという事実を、少しだけ、噛み締めていた。

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