第三十三話 新人・ミア
「今度、新しい劇団員が入る」
稽古前、バロウから、そう聞かされた。
「へえ、どんな子や」
「18歳だそうだ。今日から来る予定」
*
その日の稽古場に現れたのは、気の強そうな目をした、小柄な少女だった。
「はじめまして。ミアです」
挨拶は、そつなくこなしていたが、その視線は、どこか刺々しかった。
「よろしくな、ミア」
あたしがそう声をかけると、ミアは、あからさまに眉をひそめた。
「別に、あなたに気を遣ってもらわなくて大丈夫です」
「気を遣ってないけど」
「フン」
その反応に、あたしは、少し困惑した。
*
「あの子、なんか、あたしのこと嫌いなんかな」
休憩中、あたしはアメリアに、そう相談した。
「そう見えるわね」
「まるで、初対面で猫にシャー言われた気分やわ」
「相変わらず、例えが的確なような、そうでもないような」
*
だが、稽古を重ねるうち、あたしは、少し違和感を覚え始めた。
「ミア、その動き、もうちょい――」
「言われなくても分かってます」
そう言いながらも、ミアは、あたしのアドバイス通りに、動きを修正していた。
「素直やん」
「素直じゃないです。たまたま同じこと考えてただけです」
「たまたまにしては、タイミング良すぎるやろ」
「うるさいです」
*
ある日、ミアが、あたしの舞台を、こっそり袖から観ているのを見かけた。
「見てたんか、あたしの舞台」
「べ、別に、見てたわけじゃないです。ただ、通りかかっただけです」
「通りかかって、なんで五分もそこに突っ立っとるんよ」
「た、たまたまです!」
その慌てぶりに、あたしは、思わず笑ってしまった。
「なんか、面白い子やな、あんた」
「面白くないです! というか、あんたの舞台なんて、興味ないですから!」
「今、五分間、食い入るように見とったやんか」
「見てません!」
*
その日の帰り際、ミアは、小さな声で、こう言った。
「……その、入団を決めたの、あなたの舞台を、前に一度観たからです」
「へえ」
「べ、別に、あなたに憧れてたとかじゃないですから! ただ、こんな滅茶苦茶な人でも看板張れるなら、私でもやれると思っただけです!」
「それ、実質、褒めてくれとるんちゃう?」
「褒めてません!」
そう言い残し、ミアは、逃げるように帰っていった。
その一部始終を、少し離れた場所で見ていたアメリアが、近づいてきた。
「ノエルの他に、あなたの信者が増えてよかったじゃない」
「何が信者じゃ! あれは、ただのツンデレってやつやろ!」
「詳しいのね、そういうの」
「常識やろ、これくらい」
「にしては、ちょっと嬉しそうな顔してるけど」
「嬉しくなんかないわ!」
あたしは、その後ろ姿を見送りながら、なんとなく、これからの日々が、また賑やかになりそうな予感がしていた。




