第三十二話 冒険者ギルドとのコラボ興行
「今度、冒険者ギルドから、コラボ興行の依頼が来た」
稽古前、バロウが、そう切り出した。
「冒険者ギルドが、なんでうちに?」
「イメージアップ戦略らしい。ギルド、正規雇用じゃないせいで、あんまり評判良くないみたいでな」
「なるほどな」
「で、主演はヴィクトリア、お前にやってもらう」
「あたし?」
「ギルドの業務内容とか、冒険者が町の生活にどう貢献してるか、簡単な資料は渡されてるが、台本はなしだ。アドリブで、うまいこと盛り上げてくれって話でな」
「アドリブて、あたしにちょうどのやつやんか」
「まあ、そう思って引き受けた」
*
当日、資料には、こう書かれていた。
『冒険者ギルドは、依頼を通じて企業と冒険者を繋ぐ、地域社会に不可欠な組織です』
「……固いな、この文章」
あたしは、資料を眺めながら、ため息をついた。
「まあ、これを、うまいこと面白く伝えたらええんやろ」
*
本番、あたしは、冒険者役として、舞台に立った。
「今日も、依頼を受けに来たわ」
ギルド職員役のアメリアが、それらしく応対する。
「本日のオススメ依頼は、こちらになります」
「オススメて、まるで食堂の定食やんか」
客席から、笑いが起きた。
「依頼を受けることで、地域社会に貢献できるんですよ」
「地域社会に貢献……そうか、あたしも、ついに社会の役に立つ日が来たんやな」
「感慨深そうですね」
「まあ、社会の役に立つっていうか、正直、今日の飯代のためやけどな」
「本音出るの早すぎません?」
客席が、また沸いた。
*
その後も、話は、あちこちに脱線していった。
「ところで、この依頼、報酬はどれくらいなん?」
「それは、ランクによって変わりますね」
「あたし、実はSランクやねん」
「え、そうなんですか」
「嘘やけどな」
「嘘なんかい!」
アメリアが、思わず素で突っ込んだ。
「まあ、Sランクって、別に伝説の英雄ってわけやないしな。あくまで、ギルドの評価が高いってだけの話やし」
「それ、地味に正確な説明ですね」
「たまには、真面目なことも言うんよ」
*
結局、その日の即興劇は、ギルドの業務内容には、ほとんど触れないまま終わった。
だが、終演後、客席からは、大きな拍手が起きていた。
「面白かったわ、ギルドの人たち」
「冒険者って、身近な感じがするな」
そんな声が、あちこちから聞こえてきた。
*
打ち上げの席で、ギルドの担当者が、満足げにそう言った。
「業務内容は、あんまり伝わらなかった気がしますが……なんというか、親しみやすさは、十分に伝わったと思います」
「それ、ギルドとしては、微妙な結果なんちゃう?」
「いえ、十分満足です。今までの堅苦しいイメージが、だいぶ和らいだので」
「そうか、それやったら、良かったわ」
あたしは、そう言いながら、内心では、業務内容そっちのけで暴走した自覚があったため、少しだけ、ばつが悪い気持ちになっていた。
もっとも、結果オーライなら、それでいいかと、すぐに開き直ることにした。




