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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第三十一話 ガスの過去

「なあ、ガス」


 舞台の片付けをしている最中、あたしは、ふと声をかけた。


「なんだ」


「最近、みんなうまなってきてると思わへん? ノエルも、アメリアも」


「そうだな」


「あたしも、負けてられへんわ」


「お前は相変わらずだけどな」


「うっさいわ」



「そういえば、ガスって、昔から裏方志望やったん?」


 あたしが、何気なくそう尋ねると、ガスは、少し珍しい間を置いてから、答えた。


「いや、昔は、役者やってた」


「え、ガスが!?」


 あたしは、思わず声を上げた。


「まるで、猫がいきなり犬の真似してたって言われるくらいの驚きやわ」


「その例え、失礼すぎるだろ」


「悪気はないんよ、ほんまに」



「若い頃、それなりに真剣にやってたんだけどな」


「それで、なんで裏方に?」


「本番中、緊張しすぎて、毎回、台詞が全部飛んでた」


「全部?」


「全部だ。台本一枚分、丸ごと頭から消える」


「まるで、本番だけ記憶喪失になる不運な役者やんか」


「その例え、そのままな気がするけど」


「細かいこと気にすなや」



「ある日の本番、あまりに緊張しすぎて、セリフの代わりに、小道具の説明を延々と語り出したことがあってな」


「小道具の説明?」


「『この剣は、鍛冶職人が三日三晩かけて作った一品で――』みたいな感じで」


「ガイド付きツアーやんか、それ!」


「客も、ぽかんとしてたよ」


「それで、もう役者は無理やと」


「まあ、そうだな。それより、道具の手入れとか、裏方の仕事の方が、性に合ってると気づいた」



「今の方が、幸せそうやな」


 あたしがそう言うと、ガスは、珍しく、少しだけ表情を緩めた。


「まあな。表に出ずに、支える方が、俺には合ってる」


「意外と、深い話やったな」


「深くはない。ただの、昔の失敗談だ」


「いや、深いで。ガスの中では、あたし史上一番の長台詞やったし」


「そんなに喋ったつもりはないけどな」


「うちの劇団、ほんまに変わった経歴の奴ばっかりやな」


「お前が言うな」


「あたしは変わってへんし、普通の勝利の女やし」


「一番変わってるのはお前だと思うけどな」


 あたしは、その一言に、思わず言い返せず、代わりに、少し不貞腐れた顔をしてみせた。

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