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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第三十話 ノエルの大役

「次の新作、ノエルに準主演やってもらおうと思ってる」


 稽古前、バロウから、そう告げられた。


「え、ノエルが?」


「ああ。あの子、最近、力つけてきたからな」


 あたしは、素直に喜ぼうとしたが、心の奥で、何か引っかかるものを感じていた。



「ヴィクトリアさん、聞きました! 準主演、やらせてもらえることになりました!」


 ノエルが、目を輝かせながら、報告してきた。


「おめでとう。よかったな」


「ヴィクトリアさんのおかげです!」


「あたし、別に何もしてへんけど」


「憧れの人がいたから、頑張れたんです」


 その言葉に、あたしは、素直に嬉しい気持ちと、なぜか少しだけ、胸のざわつく気持ちの、両方を感じていた。



 その夜、あたしは、その複雑な感情の正体を、うまく言葉にできないまま、映え板に、こう投稿した。


『後輩の成長、嬉しい限りです』


 当たり障りのない一言だったが、それすら、なんだか、自分の本心とズレている気がした。



 数日後、稽古中、ノエルの演技を見ながら、あたしは、あることに気づいた。


(うまなってる……)


 以前より、明らかに、安定した演技になっている。あたしのやり方とは違う、丁寧で、堅実な芝居だった。


「なあ、アメリア」


 休憩中、あたしは、思わず、隣にいたアメリアに話しかけた。


「ノエルの演技、うまなってきたと思わへん?」


「そうね、確実に成長してるわ」


「あたし、なんか、複雑な気持ちやねん」


「複雑?」


「嬉しいはずやのに、なんか、置いていかれるみたいな感覚もあってな」


 アメリアは、少し考えるような顔をした。


「それ、まるで、自分が育てた盆栽が、いつの間にか自分の背より大きくなってた時の気分じゃない?」


「あんたまで例えボケ使うんかい! っていうか、それ、あたしの例えのはずやろ!」


「最近、あなたの影響で、つい」


「その影響、あんまり嬉しないわ!」



 初日の公演、ノエルは、堂々とした演技を見せた。客席からも、大きな拍手が起きている。


「ノエルさん、良かったですね」


「うちの劇団員も、成長してますよね」


 客席から聞こえてくる声に、あたしは、複雑な気持ちのまま、拍手を送っていた。



 終演後、ノエルが、興奮気味に駆け寄ってきた。


「ヴィクトリアさん、どうでしたか!」


「良かったで。ほんまに」


「ありがとうございます!」


「けど、あんまり調子乗んなよ。あたしの立場が危うなるやんか」


 あたしがそう軽口を叩くと、ノエルは、少し驚いた顔をした後、嬉しそうに笑った。


「まだまだ、ヴィクトリアさんには敵いませんよ」


「そら、そうや。あたしが看板やからな」


 あたしは、そう言い切りながらも、内心では、この先輩風を吹かせられる時間も、そう長くは続かないのかもしれない、と、うっすら感じていた。


 だが、それならそれで、その時はその時、また別のボケを考えればいいだけの話だった。

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