第二十九話 アメリアの両親、来訪
「今度の休み、うちに来ない? 両親が遊びに来てて、あなたに会いたがってて」
稽古終わり、アメリアが、そう誘ってきた。
「え、あんたの家に、ご両親が?」
「うん。前の劇団辞めた時、結構心配かけたから。今、楽しくやってるとこ、見せたいのよね」
「いいわよ。行くわ」
*
当日、アメリアの部屋を訪ねると、こぢんまりとした居間に、朗らかそうな夫婦が座っていた。
「いらっしゃい! アメリアがいつもお世話になってます!」
出迎えてくれたアメリアの母親は、想像以上に朗らかな人だった。
「お世話になってるというより、お互い様みたいなものです」
「アメリア、前の劇団にいた頃は、帰省するたびに、げっそりした顔してたのよ」
「まるで、干からびた植木鉢みたいな顔をしていた、ということですか」
「その例え、失礼すぎるでしょ」
アメリアが、思わず突っ込んだ。
「でも今は、会うたびに楽しそうに、あなたの話ばっかりしてて」
「え、あたしの話?」
「うん。今日はこんなボケしてた、とか、今日はこんな例え言ってた、とか」
「なんや、あたし、ネタとして消費されとるやんか」
「消費してるわけじゃないわよ」
「まあ、消費されとる分には、光栄なことやけどな」
*
食事の席では、アメリアの父親も、興味津々な様子で話しかけてきた。
「君が、噂の看板女優かい」
「噂って、どんな噂ですか」
「舞台でセリフ噛んでキレる子、って」
「その噂しか広まってへんのかい!」
「あと、映え板で、格闘技扱いされてた子、とも聞いたよ」
「なんでそこまで詳しいんですか!」
アメリアが、堪えきれずに笑い出した。
「両親とも、あなたの話、しっかり予習してきてるみたいね」
「予習の対象があたしの黒歴史て、まるで、贈り物選ぶときに、わざわざ一番趣味悪いのだけ選んでくるみたいな話やんか」
*
食事も終わり、帰り際、アメリアの母親が、あたしにそっと声をかけてきた。
「アメリアのこと、これからもよろしくね」
「こっちこそ、いつも世話になってます」
「あの子、あなたといると、本当に楽しそうなの」
その言葉に、あたしは、少し照れくさくなった。
「まあ、これからも、あたしのボケに付き合わせますわ」
「お手柔らかにね」
アメリアが、そう苦笑しながら見送ってくれた。
帰り道、あたしは、今日一日を振り返りながら、なんとなく、温かい気持ちになっていた。
もっとも、その温かさも、翌日には、いつも通りのやかましい日常に、あっという間に塗り替えられることになるのだが。




