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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第二十八話 アメリアの過去

「なあ、アメリアって、前は違う劇団にいたんでしょ」


 稽古の合間、あたしは、前々から気になっていたことを、ついに尋ねてみた。


「よく知ってるわね」


「バロウがちらっと言ってたわ。ギスギスした人間関係に嫌気が差して、うちに来たって」


「まあ、そうね」


「どんなんだったのよ、それ」


 アメリアは、少し遠い目をしながら、話し始めた。


「もっと大きい劇団でね。主演の座を巡って、毎回、裏で足の引っ張り合いがすごかったの」


「まるで、椅子取りゲームで椅子の数より人数の方が多い状態がずっと続いとる感じか」


「それに近いわね」


「地獄やんか! 生き地獄やんか!」



「先輩女優なんて、私の衣装に、こっそり針仕込んでたこともあったし」


「針て! どんな寿司職人の意地悪や!」


「寿司職人は関係ないでしょ」


「ネタと違う仕込みしてくるって話やろ」


「いや、そういう言葉遊びの話でもないんだけど」



「あと、共演者に、本番中だけわざと台本と違うこと言われたりもしたわね」


「アドリブテロやんか、それ」


「アドリブテロ」


「不意打ちで台本にないこと言われたら、こっちはパニックになるやろ。まるで、レースの途中で急にコースの矢印だけ変えられる感じや」


「例えが独特ね、相変わらず」



「そんなこんなで、疲れ果てて、うちに移ってきたってわけ」


「なるほどな。そら、うちに来たら、天国みたいなもんやろ」


「天国は言いすぎだけど……まあ、居心地はいいわね」


「そらそうや。うちには、足引っ張り合いなんて高尚な文化、存在せえへんもん」


「それ、褒めてるの?」


「褒めてる。うちにあるのは、足引っ張り合いやのうて、正々堂々とネタにし合う文化やからな」


「その言い方だと、私が針で刺されるのと、あなたたちにネタにされるの、どっちがマシか分からなくなってきたわ」


「そら、ネタにされる方がマシに決まっとるやろ!」



「まあ、でも」


 アメリアが、少し柔らかい表情になって続けた。


「あなたのその、変な明るさに、結構救われてる部分はあるわね」


「お、なんや、素直やん」


「たまにはね」


「せやったら、これからも遠慮なく、あたしのボケに付き合うてもらうで」


「それは、もう覚悟してるわよ」


 そう言い合いながら、あたしたちは、いつも通り、稽古に戻っていった。

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