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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第二十七話 金フク、見に来る

「今日、金フクが観に来るらしいで」


 開演前、バロウから、そう聞かされた。


「律儀に、前もって連絡くれてな」


 あたしは、少し気合いが入るのを感じた。


「よっしゃ、今日は、うちの舞台の面白さ、たっぷり見せたるわ」



 本番、客席の隅に、あの金髪と派手な帽子を見つけた瞬間、あたしは、いつも以上に気合いを入れた。


「愛とは、かくも残酷なものね……」


 いつも通りの熱演を見せていると、案の定、客席から声が飛んできた。


「セリフ噛んでるぞー!」


 いつもなら、素で切り返すところだが、今日は、セレナの視線を意識して、あたしは、あえて涼しい顔を作ってみた。


「噛んでいないわ」


 だが、次の瞬間、緊張のせいか、本当にセリフを盛大に噛んでしまった。


「なっ……ちゃう、これは、演出や!」


 思わず、素の関西弁が出た。客席が、どっと沸く。


(あかん、金フクの前で、みっともないとこ見せてしもた……)



 終演後、楽屋口で待っていると、セレナが、優雅な足取りで近づいてきた。


「面白かったわ、ホホホ」


「今日は、いつもより噛みすぎたけどな」


「あら、それも含めて、あなたらしいじゃない」


 その言葉に、あたしは、少し意外な気持ちになった。


「あんた、うちの舞台、馬鹿にせえへんのか」


「馬鹿になんて、してないわ。あなたの舞台には、私にはない、独特の熱があるもの」


「そんな、素直に褒めるとか、あんたらしくないやんか」


「あら、失礼ね」


 そう言いながらも、セレナは、どこか嬉しそうな顔をしていた。



 その夜、あたしは、映え板に、こう投稿した。


『今日は、大切なお客様が観に来てくれました。今度は、あたしが金翼座の舞台に足を運ぶ番ね』


 コメントは、すぐについた。


『大切なお客様って誰ですか』

『今日、いつもより噛んでませんでした?』

『緊張してたの、バレバレでしたよ』


「バレとったんかい!」


 あたしは、そう打ち込みながらも、少しだけ、頬が緩むのを感じていた。


 あんな失敗を見せてしまったのに、それでも、セレナのような実力ある女優に「あなたらしい」と言ってもらえた。今日は、それだけで、悪くない一日だったと思うことにした。

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