第二十七話 金フク、見に来る
「今日、金フクが観に来るらしいで」
開演前、バロウから、そう聞かされた。
「律儀に、前もって連絡くれてな」
あたしは、少し気合いが入るのを感じた。
「よっしゃ、今日は、うちの舞台の面白さ、たっぷり見せたるわ」
*
本番、客席の隅に、あの金髪と派手な帽子を見つけた瞬間、あたしは、いつも以上に気合いを入れた。
「愛とは、かくも残酷なものね……」
いつも通りの熱演を見せていると、案の定、客席から声が飛んできた。
「セリフ噛んでるぞー!」
いつもなら、素で切り返すところだが、今日は、セレナの視線を意識して、あたしは、あえて涼しい顔を作ってみた。
「噛んでいないわ」
だが、次の瞬間、緊張のせいか、本当にセリフを盛大に噛んでしまった。
「なっ……ちゃう、これは、演出や!」
思わず、素の関西弁が出た。客席が、どっと沸く。
(あかん、金フクの前で、みっともないとこ見せてしもた……)
*
終演後、楽屋口で待っていると、セレナが、優雅な足取りで近づいてきた。
「面白かったわ、ホホホ」
「今日は、いつもより噛みすぎたけどな」
「あら、それも含めて、あなたらしいじゃない」
その言葉に、あたしは、少し意外な気持ちになった。
「あんた、うちの舞台、馬鹿にせえへんのか」
「馬鹿になんて、してないわ。あなたの舞台には、私にはない、独特の熱があるもの」
「そんな、素直に褒めるとか、あんたらしくないやんか」
「あら、失礼ね」
そう言いながらも、セレナは、どこか嬉しそうな顔をしていた。
*
その夜、あたしは、映え板に、こう投稿した。
『今日は、大切なお客様が観に来てくれました。今度は、あたしが金翼座の舞台に足を運ぶ番ね』
コメントは、すぐについた。
『大切なお客様って誰ですか』
『今日、いつもより噛んでませんでした?』
『緊張してたの、バレバレでしたよ』
「バレとったんかい!」
あたしは、そう打ち込みながらも、少しだけ、頬が緩むのを感じていた。
あんな失敗を見せてしまったのに、それでも、セレナのような実力ある女優に「あなたらしい」と言ってもらえた。今日は、それだけで、悪くない一日だったと思うことにした。




