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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第三十九話 推薦、任せとき

「ミアが、隣町のオーディション受けるらしいわ」


 稽古終わり、あたしは、その話を聞きつけて、目を輝かせた。隣町の劇団が、客演の枠として、外部からも人材を募集しているという話だった。まだ新人のミアにとっては、実力を試す、ちょうどいい機会に思えた。


「ヴィクトリアさん、なんでそんな嬉しそうなんですか」


 ノエルが、不思議そうに尋ねてきた。


「あたし、口添えできるかもしれないのよ。審査員に、知り合いいるから」


「口添え、ですか」


「任せとき。あたしが、ミアの魅力、たっぷり伝えたるわ」


 少し離れた場所で聞いていたミアが、露骨に嫌そうな顔をした。


「べ、別に、いいです、自分の力だけで」


「遠慮すな。先輩の力、頼っていいんやで」


「嫌な予感しかしません」



 数日後、あたしは、審査員の一人――かつて舞台を観に来てくれた顔見知りに、手紙を書くことにした。


『拝啓 審査員様。うちのミアという子、めちゃくちゃええ子ですねん』


「これ、口調、そのまま関西弁で書いてるわね」


 横で見ていたアメリアが、思わず突っ込んだ。


「正式な手紙にも熱意は大事や」


「熱意より、まず文体を整えた方がいいと思うけど」



 あたしは、構わず、続きを書き進めた。


『ミアという子は、普段はツンツンしてますが、実は素直ないい子で――』


「ミアさん、これ見たら怒りそうですね」


「本人には見せんし、大丈夫や」


 あたしは、さらに、ミアの魅力を、あれこれ書き連ねていった。


『稽古熱心で、努力家で、あと、実は絵もめちゃくちゃ上手いんですわ』


「余計なエピソードまで入ってません?」


「魅力は多角的に伝えな」



 結局、その手紙は、勢いのまま、こんな一文で締めくくられた。


『とにかく、うちのミアを、よろしゅう頼んます。あたしの顔に免じて』


「顔に免じて、って、逆効果になりません?」


「なんでや」


「ヴィクトリアさんの顔、正直、業界であんまりいい意味で有名じゃない気がします」


「それ、どういう意味や!」



 後日、審査員から返事が届いた。


『ご丁寧な手紙、ありがとうございました。とても個性的な文面で、印象に残りました』


「印象に残ったて、これ、ええ意味か悪い意味か、微妙なとこやな」


 結果、ミアは、無事に、審査に通過することができた。


「ミア、おめでとう! あたしの口添えの成果やな!」


「……ありがとうございます。でも」


「でも?」


「たぶん、私の実力で受かったと思います」


「そんな水くさいこと言わんでも」


「あと、あの手紙、審査員さんに、実物見せてもらいました」


「……え」


「『とても個性的な文面』って、社交辞令だったと思います、たぶん」


「うっ」


 あたしは、思わず、言葉に詰まった。


「まあ、でも」


 ミアが、少しだけ、口元を緩めた。


「ありがとうございました。あの、口添え」


「べ、別に、大したことしてへんし」


「今、私の真似しました?」


「してへん!」


 あたしたちは、しばらく、そんなやり取りを続けながら、稽古場を後にした。

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