第三十九話 推薦、任せとき
「ミアが、隣町のオーディション受けるらしいわ」
稽古終わり、あたしは、その話を聞きつけて、目を輝かせた。隣町の劇団が、客演の枠として、外部からも人材を募集しているという話だった。まだ新人のミアにとっては、実力を試す、ちょうどいい機会に思えた。
「ヴィクトリアさん、なんでそんな嬉しそうなんですか」
ノエルが、不思議そうに尋ねてきた。
「あたし、口添えできるかもしれないのよ。審査員に、知り合いいるから」
「口添え、ですか」
「任せとき。あたしが、ミアの魅力、たっぷり伝えたるわ」
少し離れた場所で聞いていたミアが、露骨に嫌そうな顔をした。
「べ、別に、いいです、自分の力だけで」
「遠慮すな。先輩の力、頼っていいんやで」
「嫌な予感しかしません」
*
数日後、あたしは、審査員の一人――かつて舞台を観に来てくれた顔見知りに、手紙を書くことにした。
『拝啓 審査員様。うちのミアという子、めちゃくちゃええ子ですねん』
「これ、口調、そのまま関西弁で書いてるわね」
横で見ていたアメリアが、思わず突っ込んだ。
「正式な手紙にも熱意は大事や」
「熱意より、まず文体を整えた方がいいと思うけど」
*
あたしは、構わず、続きを書き進めた。
『ミアという子は、普段はツンツンしてますが、実は素直ないい子で――』
「ミアさん、これ見たら怒りそうですね」
「本人には見せんし、大丈夫や」
あたしは、さらに、ミアの魅力を、あれこれ書き連ねていった。
『稽古熱心で、努力家で、あと、実は絵もめちゃくちゃ上手いんですわ』
「余計なエピソードまで入ってません?」
「魅力は多角的に伝えな」
*
結局、その手紙は、勢いのまま、こんな一文で締めくくられた。
『とにかく、うちのミアを、よろしゅう頼んます。あたしの顔に免じて』
「顔に免じて、って、逆効果になりません?」
「なんでや」
「ヴィクトリアさんの顔、正直、業界であんまりいい意味で有名じゃない気がします」
「それ、どういう意味や!」
*
後日、審査員から返事が届いた。
『ご丁寧な手紙、ありがとうございました。とても個性的な文面で、印象に残りました』
「印象に残ったて、これ、ええ意味か悪い意味か、微妙なとこやな」
結果、ミアは、無事に、審査に通過することができた。
「ミア、おめでとう! あたしの口添えの成果やな!」
「……ありがとうございます。でも」
「でも?」
「たぶん、私の実力で受かったと思います」
「そんな水くさいこと言わんでも」
「あと、あの手紙、審査員さんに、実物見せてもらいました」
「……え」
「『とても個性的な文面』って、社交辞令だったと思います、たぶん」
「うっ」
あたしは、思わず、言葉に詰まった。
「まあ、でも」
ミアが、少しだけ、口元を緩めた。
「ありがとうございました。あの、口添え」
「べ、別に、大したことしてへんし」
「今、私の真似しました?」
「してへん!」
あたしたちは、しばらく、そんなやり取りを続けながら、稽古場を後にした。




