第二十二話 見た目から変えたるわ
金翼座の舞台を観てから、あたしは、密かに、あることを決意していた。
「あの金フク、演技だけやなくて、見た目からして洗練されとったな」
金髪を美しく結い上げ、上品なドレスを纏う姿を思い出すと、悔しいが、認めざるを得なかった。
「あたしも、見た目から変えたるわ」
*
その日の帰り、あたしは、いつも行く安売りの服屋ではなく、少し値の張る店に足を踏み入れた。
「これと、これと……あと、これも」
あたしは、直感的に「上品さ」を感じさせる品を、次々と選んでいった。金糸の刺繍が入ったストール、大ぶりの宝石をあしらったブローチ、羽根飾りのついた髪留め、そして、光沢のある布地のドレス。
「これを、全部一緒に着たら、間違いなく上品になるはずや」
その日の夜、あたしは、選んだ品々を全て身につけ、鏡の前に立った。
「……ええやん、これ」
自分では、そう確信していた。
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早速、映え板に投稿する。
『ちょっと奮発して、見た目から気合い入れてみました♡』
コメントは、すぐについた。
『情報量が多すぎて逆に目がチカチカします』
『上品さを詰め込みすぎて、渋滞起こしてません?』
『まるで、福袋の中身を全部一気に着た人みたい』
「福袋て!」
あたしは、思わずそう打ち込んでしまった。
『否定できないところが辛いですね』
『引き算という概念、ご存知ですか』
「引き算くらい知っとるわ! 高卒やぞ!」
『じゃあなんで足し算だけしたんですか』
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あたしは、負けじと、翌日、追加で説明の投稿をすることにした。
『昨日の投稿、誤解があるようなので補足します。あれは全部、意味があって選んだ品なの』
『どんな意味ですか』
『気になります』
「ストールは知性、ブローチは気品、髪留めは華やかさを表してるの」
『一番目立つドレスは何を表してるんですか』
『まさかの説明漏れ』
「ドレスは……ドレスは、全部をまとめる役割や!」
『後付け感がすごい』
『今考えたでしょ』
『まとめるどころか、さらに情報量増やしてません?』
『会見の記者質問みたいになってる』
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あたしは、めげずに、今度は品物を一つずつ、丁寧に紹介する投稿をすることにした。
『まず、このブローチだけ見てほしいの。単体で見れば、上品でしょ?』
コメントは、すぐについた。
『単体だと確かに素敵です』
『問題は全部同時に着けてることですよね』
『ブローチは無罪』
「ブローチは無罪て、まるであたしが主犯みたいな言い方すな!」
『主犯ですよ』
『情報過多罪、現行犯です』
*
夜も更けた頃、あたしは、最後の抵抗として、こんな投稿をしてみた。
『これが、今の銀月座の最先端なの』
『銀月座、最先端の意味を勘違いしてません?』
『最先端というか、情報の最大値って感じです』
「誰が情報の最大値じゃ! あたしはあたしの美学を貫いとるだけや!」
そう打ち込みながらも、あたしは、コメント欄を眺めるたびに、じわじわと、自分の格好への自信が揺らいでいくのを感じていた。
「……ほんまに、これでええんかな」
鏡の前で、もう一度、自分の姿を見つめ直す。金糸のストール、宝石のブローチ、羽根飾りの髪留め、光沢のドレス。
どこからどう見ても、やはり、情報量は多かった。




