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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第二十二話 見た目から変えたるわ

 金翼座の舞台を観てから、あたしは、密かに、あることを決意していた。


「あの金フク、演技だけやなくて、見た目からして洗練されとったな」


 金髪を美しく結い上げ、上品なドレスを纏う姿を思い出すと、悔しいが、認めざるを得なかった。


「あたしも、見た目から変えたるわ」



 その日の帰り、あたしは、いつも行く安売りの服屋ではなく、少し値の張る店に足を踏み入れた。


「これと、これと……あと、これも」


 あたしは、直感的に「上品さ」を感じさせる品を、次々と選んでいった。金糸の刺繍が入ったストール、大ぶりの宝石をあしらったブローチ、羽根飾りのついた髪留め、そして、光沢のある布地のドレス。


「これを、全部一緒に着たら、間違いなく上品になるはずや」


 その日の夜、あたしは、選んだ品々を全て身につけ、鏡の前に立った。


「……ええやん、これ」


 自分では、そう確信していた。



 早速、映え板に投稿する。


『ちょっと奮発して、見た目から気合い入れてみました♡』


 コメントは、すぐについた。


『情報量が多すぎて逆に目がチカチカします』

『上品さを詰め込みすぎて、渋滞起こしてません?』

『まるで、福袋の中身を全部一気に着た人みたい』


「福袋て!」


 あたしは、思わずそう打ち込んでしまった。


『否定できないところが辛いですね』

『引き算という概念、ご存知ですか』


「引き算くらい知っとるわ! 高卒やぞ!」


『じゃあなんで足し算だけしたんですか』



 あたしは、負けじと、翌日、追加で説明の投稿をすることにした。


『昨日の投稿、誤解があるようなので補足します。あれは全部、意味があって選んだ品なの』


『どんな意味ですか』

『気になります』


「ストールは知性、ブローチは気品、髪留めは華やかさを表してるの」


『一番目立つドレスは何を表してるんですか』

『まさかの説明漏れ』


「ドレスは……ドレスは、全部をまとめる役割や!」


『後付け感がすごい』

『今考えたでしょ』

『まとめるどころか、さらに情報量増やしてません?』

『会見の記者質問みたいになってる』



 あたしは、めげずに、今度は品物を一つずつ、丁寧に紹介する投稿をすることにした。


『まず、このブローチだけ見てほしいの。単体で見れば、上品でしょ?』


 コメントは、すぐについた。


『単体だと確かに素敵です』

『問題は全部同時に着けてることですよね』

『ブローチは無罪』


「ブローチは無罪て、まるであたしが主犯みたいな言い方すな!」


『主犯ですよ』

『情報過多罪、現行犯です』



 夜も更けた頃、あたしは、最後の抵抗として、こんな投稿をしてみた。


『これが、今の銀月座の最先端なの』


『銀月座、最先端の意味を勘違いしてません?』

『最先端というか、情報の最大値って感じです』


「誰が情報の最大値じゃ! あたしはあたしの美学を貫いとるだけや!」


 そう打ち込みながらも、あたしは、コメント欄を眺めるたびに、じわじわと、自分の格好への自信が揺らいでいくのを感じていた。


「……ほんまに、これでええんかな」


 鏡の前で、もう一度、自分の姿を見つめ直す。金糸のストール、宝石のブローチ、羽根飾りの髪留め、光沢のドレス。


 どこからどう見ても、やはり、情報量は多かった。

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