第二十一話 セレナの本音
私、セレナには、誰にも言えない秘密がある。
銀月座のヴィクトリアという女優――あの、舞台でセリフを噛んでは客席にキレる、なんとも品のない女優のことを、私は、密かに毎日、映え板でチェックしているのだ。
もちろん、投稿したことは一度もない。フォローすらしていない。ただ、時間があれば、彼女の投稿を眺めているだけ。それだけの、ごくささやかな習慣だった。
(今日の投稿、また面白いことになっているわね)
水着の投稿が格闘技として誤解される様子や、コメント欄で容赦なく突っ込まれて、思わず素の口調で怒鳴り返す様子。あの、飾らない反応を見るのが、私にとって、一日の中で数少ない楽しみだった。
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ある日の午後、街を歩いていると、偶然、当のヴィクトリアが、カフェでお茶をしているのを見かけた。
(本物だわ……)
心臓が、思いのほか大きく跳ねた。声をかけるつもりなど、なかったはずなのに、気づけば、私の足は、彼女の方へと向かっていた。
「あら」
自分でも驚くほど、自然に、いつもの気取った口調が出た。長年の女優としての癖が、緊張を上手く覆い隠してくれたらしい。
「あなた、銀月座の子よね。噂は聞いてるわ、ホホホ」
本当は、噂どころか、隅々まで存じ上げておりますわ、とは、口が裂けても言えなかった。
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会話をするうち、私は、つい張り合うようなことを口にしてしまった。
「客演の依頼も、引く手あまたでしてよ」
実際にそうなのだから、嘘ではない。だが、それを、あえてこの人の前で誇るのは、本当は、少し意地悪な気持ちからだった。
(少しでいいから、私のことも、意識してほしい)
そんな、我ながら子供っぽい願望が、胸の奥にあったのだと思う。
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その日の別れ際、私は、思い切って、劇場のチケットを用意することにした。
『実力の差、その目で確かめにいらっしゃいな』
そう添えて送ったが、本当の気持ちは、もっと単純だった。
(ただ、私の舞台を、あなたに観てほしかっただけ)
推しに、自分の晴れ舞台を観てもらいたい。それだけの、ささやかな願いだった。ライバル視しているように見せかけて、本当のところ、私はただ、彼女に認めてもらいたかったのだと思う。
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当日、客席に、ヴィクトリアと、その仲間たちの姿を見つけた時、私は、舞台の袖で、柄にもなく、少しだけ胸が熱くなった。
精一杯の演技を見せた後、楽屋口で待っていると、彼女は、意外にも素直に、こう言った。
「正直、うまかったわ、あんたの演技」
その一言だけで、この数週間、密かに温めてきた計画は、十分に報われた気がした。
「当然ですわ」
私は、いつも通りの態度を装いながら、内心では、飛び上がりたいくらいの気持ちを、必死に押し隠していた。
この気持ちを、彼女に知られるわけには、まだいかない。
だから今日も、私は「ホホホ」という、いつもの笑い方の裏に、本当の気持ちを、そっと隠しておくことにした。




