第二十話 果たし状
「金フクから果たし状が届いたわ」
楽屋に入るなり、あたしは、そう宣言した。
「金フクって何ですか?」
ノエルが、きょとんとした顔で尋ねてきた。
「金フクってなに」
アメリアも、同じく首をかしげている。
「あー、隣町の劇団の自称看板女優のことや。金髪で、笑い方がフクロウみたいやから、金フクや」
あたしがそう説明すると、二人は、なんとも言えない顔をした。
「本人には言わないでくださいね、それ」
「言わんわ、さすがに」
封筒を開けると、中には、金翼座の公演チケットが三枚入っていた。
『実力の差、その目で確かめにいらっしゃいな』
添えられていた手紙には、そう書かれていた。
「なんや、律儀に三枚も送ってきよって、タイマンじゃないんかい」
「うちの劇団員連れて観に来いってことじゃない? ある意味、喧嘩売られてるのかも」
「アメリアとノエル、付き合うてくれるか」
「面白そうだから、いいわよ」
「私も行きます!」
こうして、あたしたちは、揃って金翼座の舞台を観に行くことになった。
*
当日、金翼座の劇場は、銀月座よりも一回り大きく、内装も洗練されていた。
「まるで、うちが屋台の焼き串屋やとしたら、こっちは王宮の晩餐会やな」
「さすがにそこまで差はないですよ」
「馬鹿なこと言ってないで、もう始まるわよ」
アメリアが、そう促した。
舞台が始まると、セレナは、堂々とした佇まいで、感情豊かな演技を見せた。客席からは、すすり泣く声も聞こえてくる。
「……普通に、うまいな」
あたしは、思わず、素直にそう漏らした。
「悔しいけど、実力あるわね、彼女」
アメリアも、静かにそう認めた。
「あたしらの舞台とは、また違う笑いの起こり方や」
三人とも、しばらく、その本格的な演技に、見入っていた。
*
終演後、楽屋口で待っていると、セレナが、優雅な足取りで出てきた。
「あら、本当に来てくれたのね、ホホホ」
「約束やからな。まあ、正直、うまかったわ、あんたの演技」
「当然ですわ」
「けど、うちの舞台には、うちの舞台の面白さがあるから。今度は、そっちに来てもらうで」
「楽しみにしていますわ、ホホホ」
その笑い方を聞くたびに、あたしは、心の中で「また金フクが」と呟かずにはいられなかった。
*
帰り道、三人で、今日の感想を語り合った。
「あの人の演技、正直、勉強になったわ」
「私も、あんな安定した演技、憧れます」
「まあ、あたしはあたしのやり方でいくけどな」
「それは分かってるわよ」
あたしたちは、そう言い合いながら、それぞれの帰路についた。金翼座の舞台の余韻を抱えつつ、あたしの中には、新しい目標が一つ、静かに芽生えていた。
いつか、金フクを、あたしの舞台に呼んでやる。そして、あの「ホホホ」を、思いっきり笑い転げさせてやるのだ。




