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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第二十話 果たし状

「金フクから果たし状が届いたわ」


 楽屋に入るなり、あたしは、そう宣言した。


「金フクって何ですか?」


 ノエルが、きょとんとした顔で尋ねてきた。


「金フクってなに」


 アメリアも、同じく首をかしげている。


「あー、隣町の劇団の自称看板女優のことや。金髪で、笑い方がフクロウみたいやから、金フクや」


 あたしがそう説明すると、二人は、なんとも言えない顔をした。


「本人には言わないでくださいね、それ」


「言わんわ、さすがに」


 封筒を開けると、中には、金翼座の公演チケットが三枚入っていた。


『実力の差、その目で確かめにいらっしゃいな』


 添えられていた手紙には、そう書かれていた。


「なんや、律儀に三枚も送ってきよって、タイマンじゃないんかい」


「うちの劇団員連れて観に来いってことじゃない? ある意味、喧嘩売られてるのかも」


「アメリアとノエル、付き合うてくれるか」


「面白そうだから、いいわよ」


「私も行きます!」


 こうして、あたしたちは、揃って金翼座の舞台を観に行くことになった。



 当日、金翼座の劇場は、銀月座よりも一回り大きく、内装も洗練されていた。


「まるで、うちが屋台の焼き串屋やとしたら、こっちは王宮の晩餐会やな」


「さすがにそこまで差はないですよ」


「馬鹿なこと言ってないで、もう始まるわよ」


 アメリアが、そう促した。


 舞台が始まると、セレナは、堂々とした佇まいで、感情豊かな演技を見せた。客席からは、すすり泣く声も聞こえてくる。


「……普通に、うまいな」


 あたしは、思わず、素直にそう漏らした。


「悔しいけど、実力あるわね、彼女」


 アメリアも、静かにそう認めた。


「あたしらの舞台とは、また違う笑いの起こり方や」


 三人とも、しばらく、その本格的な演技に、見入っていた。



 終演後、楽屋口で待っていると、セレナが、優雅な足取りで出てきた。


「あら、本当に来てくれたのね、ホホホ」


「約束やからな。まあ、正直、うまかったわ、あんたの演技」


「当然ですわ」


「けど、うちの舞台には、うちの舞台の面白さがあるから。今度は、そっちに来てもらうで」


「楽しみにしていますわ、ホホホ」


 その笑い方を聞くたびに、あたしは、心の中で「また金フクが」と呟かずにはいられなかった。



 帰り道、三人で、今日の感想を語り合った。


「あの人の演技、正直、勉強になったわ」


「私も、あんな安定した演技、憧れます」


「まあ、あたしはあたしのやり方でいくけどな」


「それは分かってるわよ」


 あたしたちは、そう言い合いながら、それぞれの帰路についた。金翼座の舞台の余韻を抱えつつ、あたしの中には、新しい目標が一つ、静かに芽生えていた。


 いつか、金フクを、あたしの舞台に呼んでやる。そして、あの「ホホホ」を、思いっきり笑い転げさせてやるのだ。

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