第十九話 セレナという女
休演日、あたしが街のカフェでお茶をしていると、一人の女性が、優雅な足取りで店に入ってきた。
金髪を高く結い上げ、派手な羽根飾りのついた帽子、宝石をふんだんにあしらったドレス。明らかに、只者ではない雰囲気を纏っている。
「あら」
その女性が、あたしに気づいて、こちらに近づいてきた。
「あなた、銀月座の子よね。噂は聞いてるわ、ホホホ」
「噂?」
「舞台でセリフ噛んでキレる子でしょう。面白い子がいるものね、ホホホ」
あたしは、少し身構えた。
「あんた、誰よ」
「あら、失礼。私、隣町の劇団『金翼座』で、看板を張らせていただいてる、セレナと申します」
「金翼座って、あの、けっこう大きい劇団の」
「その通り。おかげさまで、客演の依頼も、引く手あまたでしてよ、ホホホ」
その一言に、あたしの中で、何かが音を立てた。
「客演、余裕なの」
「余裕も何も、選ぶ側ですもの、私」
*
「まあ、あんたが客演でモテるのは分かったけど、演技の実力は別の話でしょ」
「あら、実力もございますわ。この前など、涙の演技をしたら、客席が一斉にすすり泣いてくれましたのよ、ホホホ」
「うちの舞台なんて、客席が一斉に爆笑してくれるわよ」
「それ、笑わせたくて笑わせてるのかしら?」
「状況によるわ!」
思わず、素の関西弁で突っ込んでしまった。セレナは、それを見て、上品に、しかしはっきりと笑った。
「あら、面白い子。噂通りだわ、ホホホ」
「馬鹿にしとんのか」
「褒めておりますのよ」
*
しばらく、二人の間で、微妙な火花が散った。
「今度、うちの劇団の舞台、観にいらっしゃいな。実力の差、見せて差し上げるわ」
「上等や。あたしも今度、そっち観に行ったる。で、あたしの舞台にも、いつか来てもらうからな」
「楽しみにしていますわ、ホホホ」
セレナは、そう言い残すと、優雅な足取りで店を後にした。
「なにがホホホじゃ、明け方のフクロウの鳴き声みたいな笑い方しくさって」
あたしは、その後ろ姿を睨みつけながら、そう独りごちた。
「あの金色のフクロウ、略して金フクには負けてられんな」
あたしは、次に彼女と会う時のために、何か対策を練らなければと、頭を巡らせ始めていた。




