第十八話 オフ会、実現しなかった話
「誕生日、あんなに祝ってもらったし、フォロワーの皆に恩返ししたいわ」
あたしは、思い立って、映え板にこう投稿した。
『いつも応援ありがとう♡ 近々、オフ会企画しようと思います』
コメントは、すぐについた。
『マジですか!』
『ぜひ行きたいです』
『実現したら伝説になりますね』
「まるで、待望の新作発表した人気作家みたいな反応やわ。あたしが作家になれば印税生活も余裕やな」
あたしは、その反響に、すっかり気を良くしていた。
*
翌日、あたしは、劇団のみんなに、この計画を報告した。
「オフ会?」
ノエルが、少し不安げな顔をした。
「そう。フォロワーの人たちと、直接会う機会作ろうと思って」
「大丈夫ですか、それ」
「何が」
「その、変な人が来ないかとか」
「あたしのファンに変な人なんかいないわ」
「いつもコメント欄でめった刺しにされてるじゃないですか」
「それとこれとは話が別」
*
企画の詳細を詰めるうち、あたしは、ある問題に直面した。
「会場、どこにすればええんやろ」
劇場を貸すには予算がかかる。かといって、普通の飲食店では、参加希望者の人数が読めない。
「とりあえず、参加希望、募ってみるわ」
『オフ会、参加希望の方はコメントください』
コメントは、すぐについた。
『行きたいけど、平日は厳しいです』
『遠方なので無理そうです』
『企画自体は嬉しいけど、実際に会うと解釈違い起こしそうで怖い』
「解釈違いてなんや!」
あたしは、思わずそう打ち込んでしまった。
『今のキャラ、演出だと思ってたので』
『素で会うと、幻滅する自信あります』
「幻滅て! お前らなんか、あたしの悩殺ボディーでイチコロやろがい!」
*
結局、参加希望として集まったのは、たったの三人だった。
「満員御礼のつもりで会場押さえたのに、蓋開けたら閑古鳥、しかも三羽しかおらんし」
「閑古鳥って実在するんですか?」
「知らんがな」
ノエルとの会話もそこそこに、あたしは、しばらく、集まった三人分の返信欄を、じっと見つめていた。
(三人て。三人て、こう、規模感がな……)
*
その夜、あたしは、こう投稿することにした。
『色々考えた結果、オフ会は今回、見送ることにしました』
コメントは、すぐについた。
『え、なんでですか』
『楽しみにしてたのに』
「理由か。理由はな……」
あたしは、少し考えてから、こう続けた。
『安売りしたくないから』
『安売りって、参加希望三人だったのに?』
「なんで人数知っとんねん!」
『さっきのコメント欄、みんな見てましたよ』
あたしは、慌てて、別の理由を付け足すことにした。
『それに、女優たるもの、まずは劇場に足を運んでくれるファンを大切にすべきだと思ったの』
『さっきまでオフ会したがってましたよね』
『気持ちが変わったの』
『三人しか来なかったからでは』
「うるさいな! あたしにも乙女心があるんよ!」
『乙女心、朝令暮改すぎません?』
『理由を後付けしていく過程、見応えありました』
『これはこれで一つのコンテンツ』
「誰がコンテンツじゃ! せめて課金制にせえ!」
あたしは、そう打ち込みながらも、内心では、この一連のやり取り自体が、変に盛り上がっているのを感じていた。
「まあ、これはこれで、オフ会よりよっぽど盛り上がったかもしれんな」
あたしは、そう自分を納得させることにした。結局、オフ会は、開催されないまま、「見送り」という名目で、静かに立ち消えることになった。




