第十七話 誕生日と静寂
「今日、あたしの23歳の誕生日なんよね」
楽屋の鏡に向かって、あたしは、誰にともなくそう呟いた。
「看板女優の誕生日やから、今日はきっと、劇団総出でお祝いされるんやろな」
誰も聞いていないのに、一人で先回りしてそう予想し、一人でにやついていた。
「まあ、そんな畏まらんでもええけど……って、誰も畏まってすらへんやんけ!」
あたしは、思わず自分で自分に突っ込んでしまった。
*
朝一番、あたしは、映え板に誕生日投稿をした。
『また美しく歳を重ねました♡ 勝利の女、絶好調です』
コメントは、すぐについた。
『お誕生日おめでとうございます!』
『いつも笑わせてもらってます!』
『今年も安定の自己評価で安心しました』
あっという間に、祝福のコメントが山のように積み上がっていく。
「これこれ! これぞ人気者の誕生日やわ!」
あたしは、その反応に、すっかり気を良くしていた。
*
だが、現実の方は、少し様子が違った。
「じゃあ、今日はこれで解散な」
稽古終わり、バロウが、あっさりとそう告げた。
「え、それだけ?」
「それだけって、何が」
「あたしの誕生日やのに」
「知らなかったよ、そんなの」
「連絡網に書いといたやん!」
「見落としてた」
あたしは、しばらく呆然と立ち尽くした。
「まるで、盛大な祝砲の号令だけかけて、誰も弾込めてへんかった気分やわ」
「例えがいちいち大げさだな」
*
その夜、あたしは、一人、家で誕生日を過ごすことになった。
ケーキも、ろうそくも用意していない。ただの、いつもと変わらない夕食が、テーブルに並んでいるだけだった。
「まあ、これはこれで、静かでええな」
そう自分に言い聞かせながら、あたしは、もう一度映え板を開いた。
祝福のコメントは、まだ増え続けていた。
「フォロワーの方が、劇団のみんなより盛大に祝ってくれてるやんか」
その事実に、少し複雑な気持ちになりながらも、あたしは、一つ一つのコメントに、丁寧に返信していった。
*
翌日、稽古場で、あたしはこの顛末をノエルに話した。
「昨日、あたしの誕生日、誰も覚えてなくて」
「え、私は覚えてましたよ! 言うタイミング逃しちゃって」
「言えや!」
「すみません……」
「まあ、ノエルは許したる」
「寛大ですね」
「あたしは器がでかいから」
その時、少し離れた場所から、アメリアが、小さな包みを片手に近づいてきた。
「はい、これ。誕生日プレゼント」
「……あんた、覚えてたん?」
「まあ、一応ね」
あたしは、その包みを受け取りながら、なんとも言えない気持ちになった。
「ありがとう」
「そんな、しおらしい顔しないでよ。柄じゃない」
「うるさいな!」
結局、その日の稽古は、いつも通りに進んでいった。だが、ポケットの中の小さな包みだけは、いつもより少しだけ、あたしの気分を軽くしてくれていた。




