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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第十七話 誕生日と静寂

「今日、あたしの23歳の誕生日なんよね」


 楽屋の鏡に向かって、あたしは、誰にともなくそう呟いた。


「看板女優の誕生日やから、今日はきっと、劇団総出でお祝いされるんやろな」


 誰も聞いていないのに、一人で先回りしてそう予想し、一人でにやついていた。


「まあ、そんな畏まらんでもええけど……って、誰も畏まってすらへんやんけ!」


 あたしは、思わず自分で自分に突っ込んでしまった。



 朝一番、あたしは、映え板に誕生日投稿をした。


『また美しく歳を重ねました♡ 勝利の女、絶好調です』


 コメントは、すぐについた。


『お誕生日おめでとうございます!』

『いつも笑わせてもらってます!』

『今年も安定の自己評価で安心しました』


 あっという間に、祝福のコメントが山のように積み上がっていく。


「これこれ! これぞ人気者の誕生日やわ!」


 あたしは、その反応に、すっかり気を良くしていた。



 だが、現実の方は、少し様子が違った。


「じゃあ、今日はこれで解散な」


 稽古終わり、バロウが、あっさりとそう告げた。


「え、それだけ?」


「それだけって、何が」


「あたしの誕生日やのに」


「知らなかったよ、そんなの」


「連絡網に書いといたやん!」


「見落としてた」


 あたしは、しばらく呆然と立ち尽くした。


「まるで、盛大な祝砲の号令だけかけて、誰も弾込めてへんかった気分やわ」


「例えがいちいち大げさだな」



 その夜、あたしは、一人、家で誕生日を過ごすことになった。


 ケーキも、ろうそくも用意していない。ただの、いつもと変わらない夕食が、テーブルに並んでいるだけだった。


「まあ、これはこれで、静かでええな」


 そう自分に言い聞かせながら、あたしは、もう一度映え板を開いた。


 祝福のコメントは、まだ増え続けていた。


「フォロワーの方が、劇団のみんなより盛大に祝ってくれてるやんか」


 その事実に、少し複雑な気持ちになりながらも、あたしは、一つ一つのコメントに、丁寧に返信していった。



 翌日、稽古場で、あたしはこの顛末をノエルに話した。


「昨日、あたしの誕生日、誰も覚えてなくて」


「え、私は覚えてましたよ! 言うタイミング逃しちゃって」


「言えや!」


「すみません……」


「まあ、ノエルは許したる」


「寛大ですね」


「あたしは器がでかいから」


 その時、少し離れた場所から、アメリアが、小さな包みを片手に近づいてきた。


「はい、これ。誕生日プレゼント」


「……あんた、覚えてたん?」


「まあ、一応ね」


 あたしは、その包みを受け取りながら、なんとも言えない気持ちになった。


「ありがとう」


「そんな、しおらしい顔しないでよ。柄じゃない」


「うるさいな!」


 結局、その日の稽古は、いつも通りに進んでいった。だが、ポケットの中の小さな包みだけは、いつもより少しだけ、あたしの気分を軽くしてくれていた。

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