第二話 これが最先端
「今日のコーデ、見て見て」
楽屋で、あたしはノエルに、今日の私服を披露した。柄物のシャツに、派手な色のスカーフを何重にも巻き、さらに大ぶりのアクセサリーを、これでもかというほど重ねづけしている。
「……あの、それは、何かの舞台衣装ですか?」
「私服よ。最先端のコーデってやつ」
「そうなんですね……」
「これね、いうなれば、クローゼットの中で戦争が起きて、生き残った奴らだけが今ここに集結してるようなものなの」
「戦争、ですか」
「そう。柄物とスカーフとアクセサリー、それぞれ一歩も譲らなかった結果、全員着ることになったの」
「休戦してほしかったですね、その戦争」
*
その日、共演のアメリアが、珍しく声をかけてきた。
「ヴィクトリア、そのスカーフの巻き方、面白いわね」
「でしょ? これ、まるで蛇がとぐろ巻いてるみたいでしょ。獲物を逃さん、女の色気ってやつよ」
「そう……蛇なのね」
アメリアは、それだけ言って、そのまま去っていった。
*
その夜、あたしは新作のネイルを施し、映え板に投稿した。
左右で色も形も、微妙に違うデザインだった。
『新作ネイル♡ 攻めてみました』
コメントは、すぐについた。
『左右で施術者変わりました?』
『冒険者の剣と盾みたいですねw』
「誰がSランク戦士じゃ!」
あたしは、思わずコメント欄に、そう返信してしまった。
『Sランクとは一言も書いてないwww』
『まって自分で言っちゃった』
『ヴィクトリアさんの自己評価の高さよ』
『これ、じゃんけんで例えるなら、片方がグーで片方がパー出してる状態ですよね』
「それやったら、あたしの両手だけで二連勝確定ってことやろがい!」
『じゃんけんは相手いてこそでは』
『自分の中で完結する勝負、最強すぎません?』
「あー、また分かってへんコメントばっかりや」
あたしは、思わずそう漏らした。だが、すぐに気を取り直す。
「まぁ、このセンス、あんたらにはまだ早いってことやろ」
*
翌日、劇団の裏方であるガスが、珍しく話しかけてきた。
「そのネイル、片方だけ長さ違うけど、大丈夫か」
「あ、これはデザインよ。攻めた非対称ってやつ」
「まるで、片方だけ靴下履き忘れて出社した日みたいだな」
「例えが妙にリアルなんよ!」
ガスは、それ以上何も言わず、いつも通り、黙々と作業に戻っていった。
あたしは、その反応を見て、なんとなく満足していた。
(ガスも、あたしのセンスに何も言えないくらい、圧倒されてるってことね)
実のところ、ガスがどんな顔をしていたのか、あたしはあまりよく見ていなかった。




