第一話 名前の意味は勝利やぞ
映え板:現代のSNSみたいなものと思って頂ければ。
フェリシオンの興行街の一角に、「銀月座」という小さな劇団がある。あたし、ヴィクトリアは、この劇団の看板女優――ということになっている。
「愛とは、かくも残酷なものね……」
あたしは、舞台の中央で、目に涙を浮かべながら、そう呟いた。照明が、あたしの横顔を美しく切り取っているはずだ。今夜も、完璧な演技を見せてやる。
「セリフ噛んでるぞー!」
客席の隅から、そんな声が飛んできた。
一瞬、時が止まる。
「噛んでへんわ!誰がやねん!」
気づけば、あたしは素で叫んでいた。客席が、どっと沸く。
「キターー!」
「今日も出た!」
拍手まで起きている。あたしは、慌てて咳払いをして、女優の顔に戻った。
「……取り乱してごめんなさい。続けるわね」
だが、もう客席の空気は、完全に緩んでしまっていた。
*
舞台袖に戻ると、座長のバロウが、いつもの調子で声をかけてきた。
「今日も、いい仕事したな」
「褒めてます?」
「褒めてる褒めてる。客、めちゃくちゃ沸いてただろ」
「あたし、シリアスな芝居してたつもりなんですけど」
「知ってる。だからいいんだよ」
バロウは、そう言いながら、次の準備に向かっていった。
「ヴィクトリアさん、今日もかっこよかったです!」
新人のノエルが、目を輝かせながら駆け寄ってきた。
「でしょ。私は常に勝利が約束されてるから」
「え、それどういう意味ですか?」
「あたしの名前、ヴィクトリア。勝利って意味なの。つまり、あたしは名前からして、もう表彰台の真ん中に立ってるようなものなの」
「表彰台の真ん中、ですか」
「そう。他の女優なんて、参加賞のメダルもらいに来てる子供みたいなものだから」
「厳しいですね、それ」
一方、共演のアメリアは、少し離れた場所で、こちらを一瞥しただけで、特に何も言わずに楽屋へ戻っていった。
「ふん、無視するってことは、意識してる証拠ね」
あたしは、心の中でそう解釈しておいた。
*
その夜、あたしは、自室のクローゼットから選び抜いた私服姿で、鏡の前でポーズを決めていた。
角度を変え、表情を変え、一番「映える」瞬間を探る。これも、女優としての大事な仕事だ。
「これ、いいわね」
満足のいく一枚が撮れたところで、あたしは早速、映え板に投稿した。
『今日のオフショット♡ 女優の私服センス、見てほしいの』
コメントは、すぐについた。
『その組み合わせ、事故ってません?』
『色使いが独創的すぎる』
『この前、こういう服着てるお笑い芸人見た』
「誰がチンドン屋やねん!」
あたしは、思わず声に出して突っ込んでしまった。だが、すぐに気を取り直す。
「まぁでも、こうやって言われるのも、人気者の宿命だよね。困ったわ」
あたしは、一人ニヤニヤしながら、コメント欄をさらに眺めた。フォロワー数もLIKEの数も、共演のアメリアより、確実に多い。
(ほら見なさい。人気があるのは、あたしの方なんだから)
今日も、あたしは絶好調だった。
この作品も私が並行して投稿している作品と同じ世界観で、シリーズ化しています。
今のところ他に3作品を投稿していますので、よろしければそちらも併せてご覧下さい。
フェリシオン勘違い列伝
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