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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第一話 名前の意味は勝利やぞ

映え板:現代のSNS(インスタ)みたいなものと思って頂ければ。

 フェリシオンの興行街の一角に、「銀月座」という小さな劇団がある。あたし、ヴィクトリアは、この劇団の看板女優――ということになっている。


「愛とは、かくも残酷なものね……」


 あたしは、舞台の中央で、目に涙を浮かべながら、そう呟いた。照明が、あたしの横顔を美しく切り取っているはずだ。今夜も、完璧な演技を見せてやる。


「セリフ噛んでるぞー!」


 客席の隅から、そんな声が飛んできた。


 一瞬、時が止まる。


「噛んでへんわ!誰がやねん!」


 気づけば、あたしは素で叫んでいた。客席が、どっと沸く。


「キターー!」

「今日も出た!」


 拍手まで起きている。あたしは、慌てて咳払いをして、女優の顔に戻った。


「……取り乱してごめんなさい。続けるわね」


 だが、もう客席の空気は、完全に緩んでしまっていた。



 舞台袖に戻ると、座長のバロウが、いつもの調子で声をかけてきた。


「今日も、いい仕事したな」


「褒めてます?」


「褒めてる褒めてる。客、めちゃくちゃ沸いてただろ」


「あたし、シリアスな芝居してたつもりなんですけど」


「知ってる。だからいいんだよ」


 バロウは、そう言いながら、次の準備に向かっていった。


「ヴィクトリアさん、今日もかっこよかったです!」


 新人のノエルが、目を輝かせながら駆け寄ってきた。


「でしょ。私は常に勝利が約束されてるから」


「え、それどういう意味ですか?」


「あたしの名前、ヴィクトリア。勝利って意味なの。つまり、あたしは名前からして、もう表彰台の真ん中に立ってるようなものなの」


「表彰台の真ん中、ですか」


「そう。他の女優なんて、参加賞のメダルもらいに来てる子供みたいなものだから」


「厳しいですね、それ」


 一方、共演のアメリアは、少し離れた場所で、こちらを一瞥しただけで、特に何も言わずに楽屋へ戻っていった。


「ふん、無視するってことは、意識してる証拠ね」


 あたしは、心の中でそう解釈しておいた。



 その夜、あたしは、自室のクローゼットから選び抜いた私服姿で、鏡の前でポーズを決めていた。


 角度を変え、表情を変え、一番「映える」瞬間を探る。これも、女優としての大事な仕事だ。


「これ、いいわね」


 満足のいく一枚が撮れたところで、あたしは早速、映え板に投稿した。


『今日のオフショット♡ 女優の私服センス、見てほしいの』


 コメントは、すぐについた。


『その組み合わせ、事故ってません?』

『色使いが独創的すぎる』

『この前、こういう服着てるお笑い芸人見た』


「誰がチンドン屋やねん!」


 あたしは、思わず声に出して突っ込んでしまった。だが、すぐに気を取り直す。


「まぁでも、こうやって言われるのも、人気者の宿命だよね。困ったわ」


 あたしは、一人ニヤニヤしながら、コメント欄をさらに眺めた。フォロワー数もLIKEの数も、共演のアメリアより、確実に多い。


(ほら見なさい。人気があるのは、あたしの方なんだから)


 今日も、あたしは絶好調だった。

この作品も私が並行して投稿している作品と同じ世界観で、シリーズ化しています。

今のところ他に3作品を投稿していますので、よろしければそちらも併せてご覧下さい。


フェリシオン勘違い列伝

https://ncode.syosetu.com/s6525k/

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