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星たちの作戦会議2

挿絵は天王星のかけらの魔法使いのしのぶくんです

「サトルのストーカー的行為って、そのきつねさんもどきが原因だと思う?」

「ストーカー?有馬くんはそんなことしてないと思う」


突然の飛躍した物言いに対して、僕は、「ないない」と笑いながら手を横に振った。

八雲は何か言いたげだったが、言いかけた言葉を飲み込み、


「まあいいや。僕の見解では、そのサトルの隙間に何かが介入したんじゃないかっていうことだったんだけど」

「ああ〜。確かに。その考察はあるかもしれないけど、でも有馬くんそんな感じしないんだけどな」

「そんな感じしないだけじゃないの。だって律樹の最寄り駅とサトルの最寄り駅は真逆でしょ」

「たまたまこっちに用事があっただけだってば」

「一緒に降りてきたんでしょ?」

「うん」

「降りてきたのに、そのまま改札からは出てこなかったんでしょ」

「いや、駅を間違えたんじゃない?」

「律樹。本当にそう思ってる?」

「なんで?」

「気づいてるくせに。今までの行動を聞く限り、律樹は気づいてるよ。どういう人物なのか。俺も、この件だけでサトルをストーカー認定してる訳じゃない」

「そんなことないって!」

「サトルを深く知らないフリしてたのはなんで?絶対知ってたよね。君は綺麗なものが好きでしょ。顔に限らず、所作とか、身なりとか。サトルは君の話を聞く限り、すごい自分の外見を綺麗に整えていたみたいだけど。」

「いや、もちろん少しは知ってたけど、ほんと、全然今まで深く気にしてなくて。会話もほとんど覚えてないっていうか。名前も最近知ったし」


さっきまで瞳をまん丸にして熱心に話を聞いていた八雲は、僕の言い訳を聞く度に徐々に眉間に皺を寄せていった。


「?なんでそんな見え透いた嘘つくの。自分で自分の目をくらませてるって分からない?今の君の話を思い出して、おかしいって思わない?

問題を見ないふりしてるから雲行きが怪しくなってきてるんじゃないの」


有馬くんは、そんな子じゃないと思う。僕も……本当に………、有馬くんをそんなに知らなかった。嘘なんか、ついてない……。


「的場さんのところに相談しに行かないのもそれが理由でしょ。ズバッと突かれたくないところ突かれるからね」


八雲は長い前髪の隙間から、まるで深海のような、どこまでも冷たい黒い瞳で僕をとらえ、離さない。


「……」


もはや返す言葉はなかった。あまりにも容赦なく、心の奥底に隠しておいた部分に光を当てられているような気恥しさと恐怖を感じてしまったからだ。

これ以上内面を見透かされるのが怖くなり、僕は思わず視線を逸らした。


「やっぱり」


八雲が満足げな声色で呟く。僕の反応を見て、図星であることを確信したのだろう。

彼は容赦なく続けた。


「律樹が逃げたいのは戦うこと、そのものだよね」


あまりにも的を射た鋭い指摘に、ハッと息を呑んで顔を上げる。

僕でも気がついていない何かに、八雲は気づいていたみたいだった。


「これさ、だって、サトルがやばいって認めたらもっと怖くなるし、解決しなきゃいけないもんね」

「…」

「律樹が問題から逃げても、問題は追いかけてくるよ。解決するまで、乗り越えるまで」

「なんかそれ、的場さんっぽいね」

「うん。的場さんの言葉だもん」

「はあ……。嫌だなあ。でも、僕がこういう類いの経験をこの2年で既に3回はあるってことは、それはもう何か対応しなくちゃいけないのか…」


そう、僕はこの地球にやってきてから、今回のような事例は初めてではない。別の国で、別の形で活動していた時も。性別を変え、年齢を変えてみても何度も同じ問題に行き着く。でも、そもそも僕はなぜ自分がこれほどまでに呪いが発生する原因の一部になってしまっているのか、ぼくにはどうしても理解できなかった。僕の母なる惑星で魔法使いとして過ごしていた頃は、呪いなんてこんな高い頻度で発生することはなかったし、ごく小さな呪いの芽を上手に魔法へと転換して発展につなげるような、そんな穏やかな営みをしていたはずなんだ。


この地球に呼ばれて活動を続けているが、他の魔法使いの仲間もそれぞれ重い問題を抱えざるを得ない状況に追い込まれていたり、一つひとつの呪いの規模や強度が異常に大きかったりする。一体なぜ……。

一見すると平和に見える土地に身を置いているというのに、この国、この地域には深刻な呪いが満ち満ちている。この矛盾の正体が何なのかはいまだに不明で、他の魔法使いたちも頭を悩ませている。


「ね。俺がやってやろっか?」


ふいに、八雲がそんな提案を持ち掛けてきた。


「サトルの呪いが起因して結界ができたら俺もチームに参加させてよ。律樹が主導で、うーん。ウマが合うからみなみも参加させようよ。俺たち、力を貸すからさ」

「はあ?絶対ダメ。みなみも八雲もいたら僕のチームめちゃくちゃじゃん。絶対やだよ。言う事聞かないし」

「それに」


それに……。僕は誰も傷つけたくないんだ。今日見たあの悪夢が、その思いをより一層強くさせていた。誰かを傷つけてしまうくらいなら、全て僕が我慢すれば良いだけのことなんだ。

僕の持っている美しさは、どうやらこの惑星の生き物たちの気質にはうまく馴染めない。執着や、攻撃したくなるようなエネルギーを生み出してしまうのだろう。たからこそ、僕がやれることは1つしかない。


僕が美しくなければいい。


どこまでも汚く、醜くありさえすればいいんだ。もっと振る舞いに気を付けて、誰かの負の感情を引き出さないように。次に出勤する時は、メイクを極限まで崩し、背中を丸めて歩き、持ち物もできるだけ目立たないものを選ぼう。そうしよう、そうするべきだ。


ふと見上げると、八雲は僕をじっと見つめており、その顔にはなぜか微かな怒りの色が滲んでいるように見えた。


「ねえ、律樹。まさか自分が我慢すればいいとか思ってないよね?」

「えっ」


八雲は不意に自分のベッドからひょいと降りてきたかと思うと、僕のすぐ横のフローリングに座り込み、力強く僕の腕を掴んんだ。


「君の才能は何。君の母なる惑星の誇るものは何?」

「……。」

「黙るのはなし。答えて」


八雲の眼光が鋭く光る。隣の部屋の時計の秒針のような乾いた音が、しんとしたこの部屋にカチ、カチ、と規則正しく鳴り響き、強風に設定されたエアコンの音がゴーっと耳障りな音を立てている。静寂のせいで、心拍数が徐々に上がっていくのがよく分かった。


「僕が……僕の惑星が誇れるものは美しさと豊かさ、そして、愛だよ」

「そう。その才能を、君の惑星の存在も、そして勿論、他の惑星の存在が潰していいわけないよね?」


僕は言葉を失い、ただ小さく頷くことしかできなかった。僕もなぜ、自分がこういう反応をとっているのか、よく分かっていなかった。


「炎を使うのがそんなに怖い?」

「…」

「俺はね、才能を潰されるのが怖い。そして同じくらい許せない。それは君に対しても当てはまる。君がどれだけ地味にしようと、醜く振舞おうと、君を攻撃する存在は必ず君の才能の光を探して潰そうとする。…俺は、正直、守る価値があるのか、最近疑うようになったよ。この惑星の存在は、そもそも発展を望んでいない。そして、自分はそんなことは思っていない、と、客観視もできない。どんなにプラスのアイテムを与えても破滅を望み無理にでもマイナスの用途を見出し、実行する。…つまりもう一度滅亡して、リプログラミングするしかないのさ。破滅を心の底で望む存在に何を与えても待つのは発展ではなく、破滅だよ。だから…律樹。君の才能を潰す存在がこの惑星にいるなら、この炎を使って灰にできるよ」


「そんなのだめ!それはやめて!」


突然、僕が大声を上げて反発したので、八雲は驚いたような表情を見せた。


「そんなの、絶対やだよ…」


僕らはもともと僕らの母なる惑星の特性を使って、それぞれの惑星を守ってきた。だが地球という惑星はそこに生きる者たちが、僕らのかけらを少しずつ持ち合わせている特殊な環境だ。一筋縄ではいかない。僕らがこの惑星で魔法を使って呪いを魔法に転換するには、彼らと同じような構造を持たざるを得なかった。


今、僕の中には火星のかけらも、冥王星のかけらもある。それが恐ろしくてたまらない。もしも、これまで使ったことのないようなこの炎をうっかりすべて開放してしまったら、制御しきれないほどの強大なエネルギーで周囲を焼き尽くしてしまうかもしれない。だからこそ争いから逃げたいし、なるべく穏便に済ませたいのだ。


「まあ、今のは半分本気で半分冗談だよ。ごめん。見逃して。でもさ、君の惑星の象徴の愛は、時に勝ち取るものだろ?律樹。君の頭の中にある炎のイメージって、すごい恐ろしいものみたいだけど」

「…今のは八雲も悪いよ、あんなこと言われたら、余計に怖くなって当然じゃん」


八雲が、掴んだ手に込めていた力をそっと緩めたのが分かった。


「分かった。二度と言わないよ。ごめん。話し戻すとさ、まあ俺をチームに含まないとしても、せめてみなみは入れたほうがいいと思う。みなみに教えてもらいなよ。炎の正しい使い方」


そう言うと、八雲はすっと立ち上がり、引き戸に手をかけた。ガラッと扉を開けると、この殺風景な部屋とは打って変わって、多種多様な雑貨や奇妙なアイテムが所狭しと敷き詰められた別の部屋がチラリと視界に飛び込んできた。すぐにピシャリと閉められてしまったためほとんど見えなかったが、パッと見えただけでも相当なカオスだった。見たことの無い不気味なオブジェや陶器の数々、かと思えば可愛らしいぬいぐるみ、壁面には凝った装飾が施され、大きな目の形をした時計がカッチ、カッチ、と規則正しいリズムを刻んでいる。僕にはその部屋から漂ってくる独特のお香の香りと、開閉時に扉にぶつかったモビールのようなものがカラカラ、シャラシャラとこすれあう音が妙に心地よく響いた。不思議な部屋だ。同じアパートの同じ間取りに住んでながら、ここまで部屋の個性が出るとは。彼は何しに行ったんだ?ぼんやりとさっきの会話を振り返っていると、扉の奥から、


「もう相談することないなら帰って」


と、ぶっきらぼうな言葉が聞こえてきた。


「ええっ」

「俺、これから仮眠するから、出て行って」


てっきり、何か問題解決のための便利な道具でも取りに奥へ引っ込んだのかとばかり思い込んでいた。帰るつもりなんてないので、しばらくの間、八雲の何もない部屋を眺めていた。そういえば、あの家の模型の中には、何が入っていたのだろう。来客を適当に放置してると、こんなことになるぞ…。などと自分勝手な正当化をして、そーっと家の中身を確認しようと、再び手を伸ばした。まさにその瞬間だった。


ピンポーン!


「うわぁああ」


ちょうどがっつり集中していた時に玄関のベルが鳴ったので飛び跳ねる勢いで驚いてしまった。ま、まさか、これも八雲の仕掛けた周到なトラップ……?忍者屋敷かここは…心臓をバクバクさせながら身構えていると、いきなりジャラジャラ!カラカラ!と激しい音を立てて八雲が勢いよく引き戸を開け放った。


「うわっ!急に開けるなよ。」

「ん?」


八雲は、それだけ言って、玄関まで早歩きで向かった。なんだかやけに急ぎ足だったので、中途半端に開け放たれたままの扉の隙間から、好奇心に負けて隣の部屋を覗き込んだ。室内には例の不気味な、大きな目の形をした時計が設置されていた。その時計は、仕掛けられているのか、不気味な瞳をリズミカルに左右へと動かしながら、定期的にこちらを見てくる。部屋の中がやけに明るいのは、サンキャッチャーが窓辺で揺らめいているからだ。モビールとサンキャッチャーが、この部屋に取り付けてあるエアコンの送風を受けて立てる音がやや賑やかではあるものの、物は多いにしても決して雑然としているわけではなく、隅々まできれいに手入れが行き届いているのが分かる。窓際には彼のお気に入りスペースと思われる、質のよさそうな小物や読みかけの書物が整然と並べられていた。


☆


僕が興味津々に八雲の部屋を覗き込んでいると、背後から深いため息が聞こえてきた。ハッと反射的に振り返ると、そこにはいつの間にか的場さんが立っていた。


「ま、的場さん!?」


思わず裏返ったような情けない声が飛び出た。的場さんは、平日は仕事があるが、今日は休日とあって、普段よりもカジュアルな服に身を包んでいた。もっとも、襟付きのポロシャツではあるので、僕や八雲の服装に比べれば十分にフォーマル寄りではあるが。程よく鍛えられた肉体に、ポロシャツはよく似合っていた。僕や八雲、ツバメやみなみやしのぶ(天王星)といった面々は気分に合わせてその都度姿形を変えるのが常だが、的場さんは基本ずっとこの姿を崩さない。もちろん滞在する場所に合わせて性別を変えることはあっても、基本的なステータスは不変だ。


しかも的場さんは独特のこだわりがあり、この地球に降り立った当初は、あえてだらしない肉体を自らの器として選択していた。はじめはその意図は理解できなかったが、今の引き締まった姿を見れば大いに納得がいく。的場さんは、この惑星特有の”不便さ”を楽しんでいるのかもしれない。あえて不完全でだらしない肉体を選択し、そこからこの地球の時間の流れという制約の中で、自身の肉体を美しく育て上げること、鍛え上げることを目的としていたのだろう。的場さんは僕を見下ろし、眼鏡を光らせながらこう言った。


「君は一体、八雲の部屋で何をしているんだ。」

挿絵(By みてみん)

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