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代わって

「代わって!」


そう言ったかと思うと、制止する間もなく、ドッペルゲンガーは丸山くんに飛びかかった。

人一人、しかも179センチの男性が飛びかかった場合、通常その重みで私も若干引っ張られるものだが、そのドッペルゲンガーは異様に軽く、丸山くんも倒れ込むことはなかった。しかし、そのドッペルゲンガーは丸山くんの体内に溶け込ろうとしていて……いや、丸山くんを飲み込もうとしているように見えた。

丸山くんは意識がほとんど朦朧としているようで、遠い空を見つめ、目には光がなく、抵抗などできずに、ひたすらそのドッペルゲンガーに飲み込まれることを受け入れていた。

咲さんは言葉を失っていて、呼吸を荒くして丸山くんを引っ張った。

ドッペルゲンガーは引っ張っても全く離れず、私たちになんか目もくれず、丸山くんをどんどん飲み込んでいった。まるで丸山くんは寄生されたかのように、皮膚の下に虹色に輝く何かが脈打っていて、不気味でとても気持ちが悪かった。


私は、人間の姿のままでこれに太刀打ちするのは不可能だと腹を決め、魔法を使える状態に変身することを決意した。

その時だった。途端に目の前が赤くあたたかい何かで覆われた。


……みなみだ!


「律樹!怪我ない!?」


みなみは丸山くんのドッペルゲンガーを、彼の得意分野である炎の魔法で包んだ。ドッペルゲンガーは熱さでたまらないというような様子でじたばた暴れたのち、あっさりと丸山くんから離れた。離れたドッペルゲンガーはその場から逃げようと、形を変えようと収縮していたため、みなみは、ドッペルゲンガーが小さくなりきる前に、彼の2つ目の魔法である蠍の毒で動きを鈍らせ、渦巻く炎でドッペルゲンガーを捕らえた。毒はどうやら効いたようで、身動きが取れないまま、ドッペルゲンガーはこちらを睨みつけた。

倒れ込む丸山くんは咲さんと私で支え、咲さんは丸山くんに意識を取り戻すよう呼びかけていた。

ドッペルゲンガーはその様子を見て、


「あとちょっとだったのに。邪魔しやがって」


と、苛立ちをそのまま表情に出して、しかし毒の影響でぐったりとしていた。咲さんと私は丸山くんの安定した呼吸を確認した。念のため私の魔法で丸山くんの命の状態を確認する。ヒーラーではないので、治したりはできないが…


うん、どの惑星のかけらも、その惑星のかけらの中心にある光も弱まってはいるが、命に別状はないようだった。ひとまず安心……。しかし、咲さんはドッペルゲンガーの姿も、丸山くんを飲み込もうとしたときのショッキングな状況も、そして魔法使いの姿をしたみなみの登場の様子を見てしまっているはずだ。いくら丸山くんに集中していたとはいえ……。

それに、おそらく魔法も見られてしまった。

となると……。


ごめん、咲さん……!

私は、丸山くんを抱えて「い、息はある、よかっ、よかった。」と肩を大きく上下させている咲さんの肩に触れ、眠らせるよう魔法をかけた。力が抜ける咲さんと、まだ眠っている丸山くんを支えて、塀に寄りかからせる。少しだけ背中が硬いかもしれないけれど……。


みなみと言うと、ドッペルゲンガーと意思の疎通ができる様子を見て目を大きくし、


「おー、話ができるのか?お前」


と、驚きと少しの期待を乗せて話しかけた。これには私も同じリアクションをとってしまった。

そもそも、呪いは現象として漂っている場合が多く、この地球でも意思の疎通などできない場合がほとんどだ。魔物となったとしても形を成すことまではできるが、自らの意志を持ち、自立して何か行動したり、魔物自身の感情を見たりすることは非常に稀である。みなみの問いかけに、ドッペルゲンガーはギロリと睨みつけ、


「うん。お前ら、何なの?俺の家族の知り合い?誰?」


と、いかにも攻撃的に答えた。毒のせいでほとんど動けないにもかかわらず、むきになって暴れている。

……『俺の家族……?』このドッペルゲンガーは、何かコミュニティがあるのか?みなみはドッペルゲンガーの問いに淡々と答えた。


「家族?俺は魔法使いだよ。お前ら、なんかコミュニティがあるの?」

「魔法使い?なにそれ、知らない。家族に関してはお前らに話す義務はないから話さないよー。べーだ」


ドッペルゲンガーは舌を出して、ふいっとそっぽを向く。子どもっぽい仕草が目立つのが妙だ。一体何の感情や呪いから生まれたんだろうか。呪いの種類によって魔物の形は変化する。結界も呪いの種類によって大きく変化する。例えば自滅的な呪いの場合、結界内に入った僕たちへの攻撃は少なく、攻撃よりも助けてほしい、わかってほしいというような空気で満たされている。核である魔物本体と接触するまでは、ほとんど問題なく進む。

逆に誰かへの加害欲が集まったり、何かへの怒りや執着などが魔物となるほど集まって成した結界は危険度が高く、入った瞬間から異物を排除しようと攻撃が次から次へとこちらへ向かってくるため、魔法使いもかなり大人数で向かう。幸い、僕らに命という概念はないし、痛みや苦痛もない(感じるふりはできるが)ため、通常であれば命を落としているような攻撃が繰り出されたとしても、形を変えるなり魔法ではじき返すなりの対策で何とかなる。しかし進むのは困難だ。結界内にトラップがいくつも用意されていることがあるし。


しかし、この“子”は……。


「なんで君は、丸山くんになってたの?」

「だって千秋は俺の家族だもん」


千秋……は丸山くんの下の名前だ。

家族?確か丸山くんはご両親と3人家族のはずだ。そんなことをみなみは知るはずもないので、


「弟?それとも兄か……?」


と、混乱していた。


「丸山くんは一人っ子のはずだけど」

「……。俺がそうさせてんだよ。関係ない部外者に答える義理はない。消えろ」


この子の発言は先ほどから引っかかる部分がものすごく多い。なぜか丸山くんの下の名前まで知っていたり、丸山くんは一人っ子なのにもかかわらず家族だと発言したり。

そしてまるで当然かのような表情で……。いったいなぜ魔物なのにもかかわらず自分が丸山くんの家族であると思い込んでいるのかもわからない。

どこかで丸山くんを見かけた小さな呪いが、丸山くんの何かに反応して家族になりたがった……?中途半端な情報開示しかしてくれないので、こちらも全く全貌がつかめない。

みなみはそんなことより、このドッペルゲンガーの物言いが気に食わなかったようで、とうとう怒りをあらわにしてしまっていた。徐々に炎の温度を上げ、瞳にも怒りの炎を激しく燃やしていた。


「お前、自分の状況読めてなさすぎだろ。毒の量調整してんの忘れんなよ」

「お前こそ。俺が何を使えるか、スペック分からないくせに」


二人はお互いに睨み合う。

確かにこの子の力は未知数だ。何が得意で、何が苦手なのか……。

そして一番重要なのは、このドッペルゲンガーの戦い方や、この子と同じような呪いを集め、大きくさせることをやめさせる方法ではない。


――何がすべての元凶なのかを突き止めることだ。

この呪いが生まれ、育ち、惑星の滅亡の一因となるその1番初めの段階が最も重要。

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