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星たちの会議3

これでコロニーの説明回はラストです(((o(*゜▽゜*)o)))長々と失礼しましたm(*_ _)m

これは、僕らがこの惑星に降り立ち、他の惑星の魔法使いと交流を深めるようになってからずっと議論し続けている大きな謎のひとつだった。


惑星の魔法使いという存在は、もともと"個"や"特定の形状"という概念を持たない惑星の出であることが多い。僕の母なる惑星の金星も、状況に応じて形状を変化させる。海王星あたりはさらに境界が曖昧で、魔法使いという存在がそもそも"誰"を指すのかという定義自体が不思議な感覚で、意志を持つようで持たないようで、漂っていて、すべてを受け入れる、そんな不思議な性質を持つようだ。


だからこそ、この地球へと降り立った時の最初のいわゆるカルチャーショックは何よりも"個"があること、だった。僕らの惑星では、"個"という概念は存在しないからこそ、僕は魔法使いであり、同時に他の仲間たちもみな同じく魔法使いだった。お互いの間に自他の明確な境界線はほとんどなく、どこまでも美しく、豊かで、お互いを守りあっていた。だが、この地球という場所ではそのやり方はそのままでは適用できない。


「これほど矛盾に満ち溢れたこの地では、私たちがこれまで当たり前だと思ってきた常識やルールは一切適用しない。…もっとも、地球に限らず、私たちもそれぞれ変わったルールや当たり前だと思っていた特殊な習慣があるとは思うが。だからこそ、より確実で堅実な手法で呪いを抑え込み、同時に地球の魔法使いを探し出して直接この謎を問いただす必要がある。まったく、職務怠慢にもほどがある」


的場さんは抱えている課題の多さにすっかり疲れ果てた様子で、いつもの癖で____本来彼の書斎には上質な本革でしつらえられた、ふかふかのリクライニングチェアが用意されているはずなのだが___背もたれに体を預けようとして、背もたれがないことに気が付き、慌てて体勢を立て直しながら「なんだこの家は」と小さく愚痴をこぼした。その横で、八雲は先ほどから家の模型の中身のなにやら確認と、キッチンの隅にいくつも並べられた冷えたチップスターを無造作につまみ食い、を行ったり来たりしている。


「ふゃから、律樹。炎を使うしかないよ」


八雲はすでに何箱目か分からないチップスターの包みを開封し、ハムスターのように頬をパンパンに膨らませながら喋っている。見ているうちにこっちが呆れてしまう。それに…不格好だ…。


「食べ終わってから話してよ」

「…確かに、八雲の言う通りだ。律樹。今回の厄介な一件に関しては、やはり"火"の性質が絶対に不可欠だと思うのだが…君はいかがかな」

「…」


やはり的場さんまでもがそう言うように、僕自身も今回の一件には炎の力が絶対に必要なのだろうと感じていた。こういうドロドロとしていて、どこかまとわりつくような感情が絡み合う粘着質な呪いの芽は、今後。より多くの同質の負の感情を次々と呼び寄せて結界を形成するだろう。これに真正面から対応するには、土、そして倍の炎が欲しい。僕自身の性質のみで戦うのは、どうしても対応の限界が来てしまう。だが、かといって八雲の持つ炎を借りるとなると話は別だ。彼の炎は火力が強すぎる上に、次にどんな戦略を

仕掛けてくるのか予想がつかない。彼の頭の中にある戦略を素直にすべて開示してくれる保証はどこにもないし、何より八雲の炎は普通のそれとは決定的に異なる。時にはマグマのようにドロドロとすべてを溶かす凶暴な炎になり、またある瞬間には気づいた時には自分自身が燃え盛る炎の中心に閉じ込められてしまうような、得体の知れない不思議な性質を秘めているのだ。要するに、僕がコントロールしきれない相手。

下手をすれば、僕自身が彼の繰り出す炎の巻き添えを食らってしまう結末すら十分にあり得る。


きっと彼はケロッとした顔で、灰からひょっこりと顔を出し、「みんないけそう?」とか言ってきそうだけど。


今回の件を解決する上で重要なのは炎の性質だ。やはり、呪いには炎が必要不可欠であることを、ひしひしと感じている。そのうえで、今回の呪いの性質にぴったりなのは…みなみの炎。


僕の風と、みなみの火……。


「律樹は炎を怖がりすぎてるよね。しかも君が過剰に恐れているその炎って、要するに誰かが誤用した結果の歪んだ炎だろ?」


僕が深刻な顔つきで思い悩んでいると、八雲がキッチンのカウンターからひょいと身を乗り出し、語りかけてきた。


「炎って確かに危険で怖いものだけど、結局は使い手のセンス次第じゃん。律樹は俺のことをものすごい盛大な勘違いをしてるみたいだけど。

分別つけずに目の前のものすべてを焼き尽くす、みたいな。みなみに対してもそう。まあ、この惑星では特に炎という性質が争いや暴力に誤用されがちだから、怖いイメージついても仕方ないけどさ。だけどそれって、本当に俺らの炎が悪いの?違うでしょ。」


静かではあるが、そこに確かな怒りと誇りが含まれているのが、八雲の声色からひしひしと伝わってきた。この子は、自分自身の持って生まれた才能や本質を、他者から抑圧されたり、頭ごなしに否定されたりすることが耐えられない。だからこそ、僕が八雲やみなみの持つ"炎"の性質に対して感じている恐怖に対しても、もどかしさと苛立ちを感じているのだろう。彼らにとって、炎とは他でもない自分自身の才能そのものなのだから。


「俺らが使う炎は、そんな安っぽくて乱暴なものじゃない。ていうかさ。律樹、最近だいぶ地球の存在から変な悪影響受けすぎてない?君が本来持ってるはずの才能の美しさまで制限しようとしたりさ。正直俺には理解不能だよね。ちょっとこの惑星の存在と距離見直して、深く関わるのしばらく避けたほうがいいんじゃないの?」

「そんな言ったって仕方ないじゃん!僕だって毎日試行錯誤しながら必死にやってるんだよ。この惑星で馴染むには色んな人間と関わらざるを得ないし、時には影響されてしまうことだってあるじゃん。ただ単に…ただ単に、僕の性質が上手く嚙み合ってないだけだ。…また変えるさ。居場所を…。関係をかえればまた何か新しい風が吹いて状況が変わるかもしれないし。自室に引きこもってばっかりで世間の風に当たらない八雲に、僕のこういう複雑な価値観なんて到底分かるわけないよ!

」

「はあ?そういういかにも他責思考な物言い…心配しなくても地球の環境に馴染んでるみたいだけどね。"環境が悪い"?"自分の美しさが悪い"?そりゃそんな思考パターン持ってるなら炎が怖くて仕方ないよね。何でもかんでも外側のせいにしていれば、確かに一時的には楽だろうけどさ、場所さえ変えれば簡単にハッピー、万事解決!ってなると本気で思い込んでるなら、大間違いだよ。本当に変えるべきなのは内面でしょ。自分の内側が1ミリも変わってないのに表面的なところだけいくら変えたとしても、またサトルみたいなやつが寄ってくるに決まってる。」

「君ってホント、物事を大げさにとらえるのが好きだね!僕がそんなに楽天的な思考で逃げ回ってるように見えるわけ?また同じような問題が起きたら、…その時はその時でちゃんと対応するつもりだもん」

「律樹の考えてる対応って、具体的に、何?まさか美しさの才能を抑制することも含まれてたりしないよね」

「それは…状況次第だよ。もし万が一、僕という存在が原因で周りの平和が脅かされるような事態になるなら。僕が身を引きか美しさを隠す対応を取るのが一番バランスが崩れずに丸く収まるだろ。人間関係って、君が思っているほど単純じゃないんだよ…」

「…どんな場所に身を置いていたって、自分自身の持って生まれた才能を抑え込む必要がある場所なんて、そもそも間違ってる。そんな不毛なことばかり続いているなら、個人の発展なんておろか、お互いに共倒れして滅亡へ向かっていくだけじゃん。君の言う人間関係ってのは、そんなに愚かなものなの?ねえ。頼むから、俺を失望させないで…。俺に破滅を選択したくなる理由を与えないでくれ。そいつらは…守る価値があるの?そんな窮屈な存在の在り方がこの惑星の大半を占めていて、貴重な才能を潰し合ってるってこと?それって、このコロニーに必要あると思うか…そんなもの、もともといつかは壊れる運命の代物なんだから、いっそ今すぐにでも木っ端みじんに壊してしまえばいいよ。なあ、律樹。」


僕は、あまりの言われように、胸の奥からマグマのような激しい怒りが一気に噴き出し、もう抑えきれなくなりそうだった。八雲の口から出る言葉の根底には、きっと僕の身を案じる気持ちがわずかには含まれているはず。それなのに…はたしてこの煮えくり返るような感情は八雲の物言いに対する怒りなのか、それとも自分の才能を抑え込もうとした自分自身に対する不甲斐なさの怒りなのか、あるいはこんな息苦しい環境を作り出しているこの地球という惑星の仕組みへの怒りなのか、自分でももう判別がつかなかった。


ただ、ただ強烈ないあk理が体の中から熱い炎のように燃え広がり、どうしようもなく暴れ出しそうになっていた。こんなにも激しい怒りの感情が湧いてくるのは、やはり八雲やみなみの持つ強烈な惑星のかけらが今の僕の中に同居しているからなのだろうか。


もう限界だ、何かものすごくひどい言葉を八雲に投げてやりたい__そう思い切り息を吸い込んだ、その瞬間だった。


「二人とも、そこまで。落ち着きなさい」


的場さんの低く威厳のある声が、部屋の空気をガラッと変えた。的場さんは、鋭い視線を僕と八雲と交互に走らせ、無言のまま、強い牽制の意図を込めた。


「八雲、君の主張は少々極端すぎる。この地球には白か黒かだけで明確に割り切れない部分もあるのだ。それに重ねて言っておくがね。私たちはこの地も、この肉体を纏うことも、すべてが初めて体験することだ。戸惑い、間違い、悩むのはごく自然なことだ。

律樹。私は実のところ今回の件に関しては1部八雲の意見に同意せざるを得ない。君が持っている”美しさ”という素晴らしい才能は、他の存在に勝手に奪われたり、無理やり抑制していいものではない。このことは、私が許さないのではなく、このコロニーが許さない。なぜなら、個の才能の抑圧はこのコロニー全体の発展を妨げるからだ。私の持っている才能も、八雲が持っている才能も、すべて同じだ。この宇宙__コロニーのあらゆる星々の発展を強力に促すために、惑星の在り方には様々なアプローチが存在し、それぞれに不可欠な役割が割り振られている。君が担っている役割は、まさにこのコロニーに必要とされているから存在するんだ。美しく着飾ること、清潔にすること、周囲とのバランスを調整すること、それらを使って君はこの惑星、コロニーを発展させる。私の役割は”忍耐・試練”だ。あえて厳しい負荷を自分に課し、それを不屈の精神で乗り越えること、あるいは困難とともに存在し続けることで、コロニーの発展を促すのだ。八雲は破壊と再生が役割だ。彼は構造を大きく切り替えるためのスイッチのような役割を背負っている」


「俺は何度も死んで、何度も生まれ変わり続けるのが役割。その過程で、どうしても周囲の存在を巻き込む必要がある。俺の周辺に引き寄せられてくる連中は、俺との関わりを通じて根本的な生まれ変わりを強制される宿命にあるんだよ。俺はその領域でのドラスティックな生まれ変わりを自ら、俺自身が引き受けることで、このコロニーの発展を支える。だからさ、律樹。君も自分の役割を思い出せ。途中で投げ出したりすんな」

「…八雲。とりあえず。」


的場さんが八雲の頭をぽかっとげんこつした。


「私の戦略に一応の納得してもらった上で、律樹には今回のチームに必ず参加してもらう。そして”炎”を使うことを受け入れてもらう必要があるのが…」


「戦い方は……。現状の流れを見る限り、いつまでも地道に小さな呪いを一つひとつ消していくようなやり方を選択するフェーズは過ぎてしまってるので…」


「ああ。その通りだ」


「全然納得できないし、正直に言えば、まだ別の方法は無いものかと頭の片隅で模索してはいますけど…確実に呪いを抑えることができる手段がその戦いなのだとしたら、僕、やります」


「ありがとう。律樹。私も他に方法が無いか、引き続きあらゆる可能性を検討する予定だ」


「となると、残る問題は炎を使うか、だが…。これに関してはどうかな。私もチームの一員として、もしみなみが暴走しそうになった場合は、適切に抑えられるように立ち回りをコントロールするつもりだ。今回の作戦において、今回は君が調停のメディエーションで臨む。私とみなみがオポジションを取るから、君がトラインとセクスタイルを取るチームだ」


的場さんは左手首に身に着けた、上品な光沢をまとった、ひと目で質の良さが伝わってくる腕時計に目を落として時刻を確認すると、「まあ、じっくり考えてくれたまえ。できれば再来週のどこかのタイミングで最終的な回答が欲しい」と僕に告げ、さっさと玄関の方へと歩き出した。

僕は、これから待ち受ける呪いとの直面を想像して思わず重いため息をつきつつ、ふと、バイトの仲間たちに相談してみたくなっていた。


☆

的場さんとともに、僕らは八雲の部屋を出て、玄関先でそのまま解散となった。

じっとりとまとわりつく真昼の暑さよりは幾分かマシになった外へ足を踏み出すと、夕暮れ時の空はすでに鮮やかなオレンジ色と深い紫が混ざり合った美しいグラデーションに染め上げられており、なんだか散歩でもしたい気持ちになった。


八雲のやつ、あんなに怒ったり突っかかってきたりしたけど、怒る理由はあくまで僕のため、だったな。


そういえば、的場さんは僕が結界内部に入れた理由について、結界が安定しきっていないから、と推測してたけど、だとしたら…あの時助けを求めていたあの声は、何だったんだろう。


まあ、いいか。今の僕は考えることが山ほどある。はやく咲さんと丸山くんに会って、くだらない雑談をしたい。なんの意味もない会話をしたい。


そんなとりとめのない思いを巡らせながら、ようやく自室へと戻った僕は、エアコンの修理の手配を的場さんに依頼しようとしていたことをすっかり忘れていたことに、今さら気づいたのだった。


挿絵(By みてみん)

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