表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月影夜半  作者: 夜半堂
7/12

第5話 九条清継

 雷鳴が、夜の都を裂いた。


 花宴の異変以降。


 都では怪異の目撃が急増していた。


 夜道で消える旅人。

 夜ごと響く童歌。

 人ならざる影。


 宮中は密かに揺れていた。


 そしてついに。


「陰陽寮より、新たな討伐役が派遣される」


 帝は静かにそう告げた。


 御簾の向こう。


 そこに立っていた男が、一歩前へ出る。


「九条 清継」


 低い声。


 派手な緋色の狩衣。


 鋭い目。


 乱暴そうに結い上げた黒髪。


 いかにも“荒くれ者”という雰囲気だった。


 だがその身には、一流の霊力が宿っている。


 左大臣家嫡男。


 若き天才陰陽師。


「……こいつが、“月影 夜半”か」


 清継は夜半を見て鼻で笑った。


「思ったより細ぇな」


「九条 清継様は、もう少し礼節を――」


「うるせぇ」


 宮中の者を一喝し、清継は夜半へ歩み寄る。


 その目は鋭かった。


「聞いてるぜ。怪異に情をかける変わり者だってな」


「……否定はしない」


 夜半の返答に、清継は眉を顰めた。


「馬鹿じゃねぇのか」


 空気が張る。


「怪異は怪異だ。斬るべきものだろ」


「すべてが、そうとは限らない」


「あ?」


「泣いているものもいる」


 静かな声。


 だが清継は苛立ったように舌打ちした。


「だから都が腐るんだよ」


 その瞬間。


 びり、と空気が震えた。


 妖気。


 宮中の外から、黒い瘴気が立ち昇る。


 式神が叫ぶ。


「怪異です!!」


 庭園の向こう。


 巨大な鬼が現れていた。


 異様に長い腕。


 裂けた口。


 瘴気を撒き散らしながら、宮中へ侵入してくる。


 清継が笑った。


「丁度いい」


 ばち、と雷光が走る。


 彼の背後に、無数の呪符が浮かび上がった。


「月影」


 清継が振り返る。


「どっちが正しいか、見せてやるよ」


 鬼が咆哮する。


 同時に。


 清継が地を蹴った。


「――雷咒・裂牙!!」


 雷が奔る。


 呪符が炸裂し、鬼の腕を吹き飛ばす。


 轟音。


 宮中が揺れた。


 だが鬼は止まらない。


 夜半は静かに刀へ手を添える。


「……月影ノ太刀」


 するり、と。


 刃が月光を映した。


 風が止む。


 夜半の周囲だけ、音が消えた。


「――宵月」


 一閃。


 白銀の軌跡が、夜を裂く。


 鬼の身体が斜めに断ち切られた。


 黒い瘴気が散る。


 清継が目を細めた。


「へぇ……」


「まだ来る」


 夜半の言葉通り。


 瘴気の奥から、さらに異形が這い出してくる。


 百鬼夜行の残滓。


 都そのものが、怪異を呼び始めていた。


 清継は舌打ちする。


「チッ、面倒くせぇ数だな」


「下がっていろ」


「あ?」


「こいつらは、苦しんでいる」


 その言葉に。


 清継の目が険しくなる。


「またそれかよ」


 雷光が爆ぜた。


「苦しんでるから何だ!?」


 清継の怒声が響く。


「怪異を生かせば、人が死ぬ!!」


 夜半は静かに鬼を見る。


 異形の奥。


 そこには確かに、“悲鳴”があった。


「……だからこそ」


 夜半が刀を構える。


「救えるものは、救いたい」


「甘ぇんだよ、お前は!!」


 清継が飛び込む。


 雷を纏った拳。


 夜半が受け流す。


 刃と雷が激突した。


 轟音。


 火花。


 桜が激しく舞う。


「共存だと!? ふざけんな!!」


 清継が叫ぶ。


「怪異は人を喰う!! 人を壊す!!」


「……人もまた、怪異を生む」


 夜半の声は静かだった。


「憎しみも、悲しみも」


「だからって許せるか!!」


 雷が走る。


 夜半が月光の斬撃を放つ。


「――月影ノ太刀・朧」


 淡い光が夜を裂いた。


 だが清継は笑う。


「はっ、いい剣じゃねぇか!!」


 雷と月光。


 二つの光が激突する。


 宮中を揺らしながら。


 まるで。


 思想そのものをぶつけ合うように。


 その戦いを。


 白妙は遠くから見つめていた。


「……似ている」


 ぽつり、と呟く。


 誰より優しくて。


 誰より不器用なふたり。


 だからこそ、ぶつかるのだと。


 夜はまだ、終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ