街が私を呼んでいる
内容が書きかけの上に題名が「未定ふへぇ」のまま更新されていました。予約投稿怖い。恥ずかしい。大変失礼致しました。
王都のとある裏通り。
そこには、赤黒い顔をした男が真夜中にだけ開ける、小さな小さな店がある。
「ああ、お前さんか」
その古ぼけたドアが、軋んだ音を立てながら開いた。
「例の依頼はどうなっている」
そこから現れたのは、青碧のローブを身につけた細身の男。
「ああ、まあまあ腕の立つ三人が受け持っていったぞ。お前さん、この依頼をあまり広めて欲しくはないっつったろう、だから今はすでに締め切っている。……まったく、前金も何もないのに、よく依頼に食いつきやがる」
青碧の男の顔は、深く被ったフードのせいでよく見ることができない。
それでも、店主である男は、彼が誰だか知ることができた。
それは、青碧のフードから漏れる髪の色。
輝く銀だ。
「そいつ達の腕は立つか」
「さーてなぁ。どうして突然?」
「……対象を捕らえられなかった際の保険に、獣を送ったのだ」
「獣だあ?」
銀髪の男はドアのそばから動かず、静かに男へと告げる。
「アルタヌを、イペルタム界隈に放った」
ガタリ、椅子が蹴倒された。
「……正気かよ」
「禁術をかけて、対象を殺すよう暗示させた。アルタヌを倒せる者は三人のなかにいるか」
「……一人。いるっちゃあ、いる」
「ならば良い」
安堵するような、男の声。
「……安心するくれえなら、そんな恐ろしい奴を野放しにすんなってんだ」
「こちらにも事情があるのだ。生かして捕らえたいが、それが無理なら消すしかない」
「あんた、そんなに黒髪の女が憎いのか?」
「こちらの詮索はしないでいただきたい。……要件はそれだけだ。失礼する」
再び軋む店のドア。
「まったく……お偉い方の考えるこたぁ、恐ろしすぎてついていけねぇ……」
静かに去っていく青碧の男の後ろ姿を、店主の男は両腕を掻き抱きながら見送った。
……… ……… ……… ……… ………
テントの中は最高だった。
ムカデに這われる心配も、牛に踏まれる心配も、寒さに震えることも、野獣に襲われる不安もない。
人は何故、家をつくるのか。周囲から閉鎖された環境に落ち着きを得ているからである。
私は今、まさにそれだった。
「ふぁ……」
ふんわ~りと、自分の頭が覚醒しようとする感覚。
周囲は未だ、静寂に包まれているようだ。
「ああぁ、これは……もしかして……ふへへぇ……久々だよぉ……久々の二度寝タイムだよぉ……!」
両目は硬く閉じたまま、私は日本にいた頃のように、数分ほどニヤニヤする時間を設けた。
そう、以前はこれが私の平常運転だった。今では滅多に味わえなくなってしまった、貴重なボーナスタイムだ。
しかしいつも以上に体が重くて、動きにくい。トルグルのせいだろうか。
あまりに重いので、不快感を拭うように寝返りを打とうとして、そこで自分の肩口あたりに巻かれている生温かい何かの存在を認識した。
「……んー」
……私ではない。
私ではない、男の声が、私のすぐ後ろ、頭上から聞こえた。聞こえてしまった。
「………………」
ようするに、あれか。私の肩口にあるのは人間の腕で、私の真後ろ頭上側にあるのは人間の頭だと。そしてその正体は。
「おはよ、ナツ」
振り返れば、幸せそうに微笑むフルオープン。
「ぬっころす」
「え?」
まだ夜も開け切らぬ時。
一人の男の壮絶な悲鳴がイペルタムの先まで届いた。
「しんどそうにうなされてるから抱いててやったんじゃねえか!」
昨日と同じように大道を移動しながら、レヴィが舌打ちをして言いくさる。そんな彼を、私は軽蔑と侮蔑の感情を顔面いっぱいに表現しながら振り返る。
「レヴィが近くにいるからうなされてたんじゃないのか」
「ひっで!感謝くらいしろってのー」
「そうですね、左腕が治ったら感謝の言葉と一緒に殴ります」
「う、うわー。コワー」
と言いつつ、実のところ、うなされている理由はトルグルにあった。レヴィが言っていた発熱や倦怠感が少しずつ現れてきているのだ。
「ふぅ……」
額が熱い。夏場に外で一日中働いたあとのようなダルさを感じる。
(ただ、熱にうなされていたからと言って誰が寝込みを襲われて感謝なんかするかっ!というかうなされてるから抱きついたって、おかしいだろ!起こせよ!)
やはり、どれほど彼に優しい素振りをされても絶対に信頼してはいけないのだとわかった。これはあれだ、日本でも同じである。悪徳詐欺、尻軽編。
もはや、すれ違う人達全員を疑ってかかりたいところだが、しかしポッケのように慈愛の塊のようなひとがいることも確かである。
はなから善か悪かと顔を顰めていては大切な縁も切れてしまうだろう。難しいところだ。
「ナツ」
「なんだよ」
レヴィが馬上の私を振り返る。
「剣、買うんだよな」
「……? ああ」
「一緒に見に行ってやるよ」
「えっ……あり、がとう?」
これは、今朝の謝罪か。悪いことをしたのだと自覚してくれているのだろうか…………っておい。早速詐欺に引っかかろうとしているぞ、私!
とりあえず、彼が一緒に剣を選んでくれると言うならそれはありがたい。素直に喜ぶとして、ただし気は許さずにおこう。
「つことで、そろそろ俯くのをやめて目の前を見てみろ」
「え?」
「イペルタムが見えてきたぞ」
私は慌てて顔を上げる。
レヴィにブチブチと嫌味を垂れている間に、私達は随分と歩を進めていたらしい。遠目には、分厚い防御壁に囲まれた、たくさんの赤い屋根が見えていた。
「あと三刻も歩けば着く。まあまあ早い到着だな。商人がトルグルを怖がって早足で移動した甲斐があるってんだ」
レヴィの商人を馬鹿にするようなニヤニヤ顔など今はどうでも良い、あれがイペルタムだ。
ということは、やっと、やっと私は商人達と、もといレヴィとの旅が終わるわけだ。
短いようで、なかなか長い旅だった。




