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君とおなじ ただひとり

 

 胡乱げな表情の彼と目が合う。


「あの、突然なんだがですけども」

「……あ?」


 私はレヴィを馬上から見つめた。


「その、イペルタムで剣を買おうと思うんだ、私は。いや、その前に、今持っているナイフが錆びてきてるんだ。でしてですね、そのー、よろしければ私に、ナイフや剣の手入れの仕方を教えていただけませんでしょうかと」

「……なんで剣が必要なわけ?」


 手入れのことよりも、そこが気になってしまったらしい。レヴィは私を無表情で見つめ返してきた。

 やはり彼の目は少し怖いと思う。いったい何を考えているのか、全くわからない。


「それは、その……」


 ただ、その目力に負けて口ごもってしまうわけにはいかないのだ。

 私は唾を呑み込んでから、はっきりと理由を告げた。


「それは、さっきの戦いで、自分の弱さを知ったからだ!」

「……弱さ?」

「ほら、私は左腕に怪我を負っただけで、結局は二匹ともレヴィが打ち取ってただろ」

「あー……いやー、別にいいんじゃねえの、弱くても」


 俺が守ってやるって。と、そう言ってくれるレヴィの口調は軽い。よほど腕に自信があるのか。

 しかし、しかしだ。それではいけない。私が変わらなくてはならないのだ。


「レヴィ」

「なんだよ」


 それに、彼はいったい「いつまで」私を守ってくれる、というのだろうか。


「今はレヴィが守ってくれていても、私は……私は、王都まで、きっとずっと孤独なんだ。

 また今回みたいに、誰か商人に同行しながら道を進むんだろうけど、それでも、私の味方なんて一人もいない。ずっとひとりぼっちなんだと思う」


 レヴィの足が止まる。つられてケルベロスも数歩足を進めた先で、どうかしたかと主を振り返るように停止した。

 遠くもなく、近くもない距離。

 私は背筋を正して、堂々とレヴィを見下ろした。


「一人でも生きていけるように、きちんと強くならなくちゃいけないんだ。……だから、頼む」


 真面目に口を引き結ぶ私を見つめていた彼は、何かを考え込むように一度まばたきをして、そのまま黙り込んでしまう。

 が、しばらくすると、なぜか自分の顔を隠すように俯き、小さく肩を震わせ始めた。


「…………おい」

「……ふぐぐっ……」


 ……私の真剣な訴えに対して、なんとこいつは笑ってくれちゃっているのである。


「なにが面白いのか百文字以内で説明していただきたいんだけど」

「ええ? ぐふふ、いんやあ、なにも?」


 どうせ「こいつ弱いくせにカッコつけちゃってダッセー」とでも思っているのだろう。

 ちくしょう、このフルオープンめ。私に助力する気はないということか!


(ぐぎぃいいせいぜい笑っとけッ!絶対に強くなってやるからな!!)


 私が鼻頭に皺を寄せて肩を怒らせながら内心で絶叫していると、レヴィは一つため息をついてから、こちらに向かってニヤリと笑った。


「いいよ。教えてやる」

「えっ!」

「なんだよその予想外だったーみたいな反応は」


 予想外だった。面倒だからと断られると思っていた。


「本当か!?」


 私は思わず笑顔になって目を輝かせながら、レヴィを見つめる。やっぱりこいつは良い奴なのかもしれない!


「ありがとうレヴィ!」

「その代わりに胸触っていい?」

「この変態、クズ、おたんこなす」


 訂正。訂正である。こいつは良い奴でなんかではない。ただの色魔、色魔だ!

「オランコダスってのは何?」というレヴィの質問に対しては舌打ちで返答した。


「今回は特別に無償で教えてやるけど」

「……それは、どーもありが……」

「血みどろになってるナツって物凄く妖艶で素敵だと思うよ、俺」

「ぁああぁ何!? 趣味悪ッ!!」


 信じられない。何を言っているのだこいつは。頭がおかしい。おかしすぎる。

 レヴィの存在は、ありがたい。ありがたいのだが、とってもありがたくない。

 なんとも複雑な心境である。


「いやしかし、本当、俺と似てるわ、お前」


 最後にレヴィが何か気持ち悪いこと言ってくれたようだが、心の安定を優先した私は何も聞かなかったことにした。


 無視だ、無視無視。



 ……虫だ。


 虫、虫だ。巨大な虫に追われている。

 辺りは真っ暗。私はひとりぼっち。


 左腕の怪我は治っているが、足はもつれるし、息はあがるし。

 状況は、最悪である。


 あと少しの距離で追い詰められる。

 ああ、虫に食べられて死ぬな、これ。


「おいナツ、起きろ」


 すぐ真後ろで虫が喋った。物凄く気持ち悪い。


「起きろっつってんだろ」

「…………起きてる」

「馬鹿か。明らかに寝てるから起きろっつってんだよ」


 私は、閉じていた目を開けた。

 頭がボーッとする。

 つい先ほどまで真っ暗だったのに、今や空が赤い。朝焼けか、それとも夕焼けだろうか。

 ちらりと横目で背後を確認してみたが、どうやら巨大な虫もいない。どういうことだ。


「お前、うなされてたぞ」


 後ろから声が聞こえた。

 お恥ずかしいことに、本当に寝ていたらしい。

 よくよく自分の状況を見てみると、私は未だにケルベロスの上に乗ったままである。左腕も真っ赤だ。


「あれぇ……?」


 しかしどうしたことか、寝入った瞬間を覚えていない。少しばかり疲労しすぎたのだろうか。

 やはり体力が足りない。


「そろそろ野営に入るけど、お前、今日も外で寝るつもりかよ」

「……そのつもりだけど」

「なんなら俺のテントに入る?」

「丁重にお断りいたします」


 しかしよく落馬しなかったな、と思っていたら、背中あたりに存在していた温かい何かがゆっくりと離れていった。

 するとすぐさま左後ろから、何かが地面に落ちたような音が響く。


「何を強がっちゃってんだか」


 その声は、同じく左後ろから聞こえた。

 ……ということはだ、あまり、あまり考えたくはないが。


「……支えていてくださって、どうも?」

「いえいえ、すんげーやわらかかったですよ」


 レヴィに背後から支えられて、ケルベロスに二人乗りをしていたらしい。


(落馬したほうが楽だったかもしれない……)


 肉体的にはありがたいが、精神的には全くありがたくなかった。


 

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