二酸化炭素をはきだして
私の一日は、朝六時に設定したデジタル時計のアラーム音で始まる。
私は昔から寝起きがあまり良くなかった。すまん正直に言おう。むしろ、最悪だ。
二度寝、三度寝、上等である。重くのしかかるような眠気から覚醒しかけた頭が、再びふんわりと沈んでいく感覚。
最高じゃないですか。
だがしかし、だがしかしだ。
こうやって寝ていてばかりではいつか必ず金が底を付き、美味い飯を食えないばかりか衣食住すら行えなくなる。というのも、悲しきかな、事実である。そう、この世は働かざる者食うべからずだ。
だからこそスヌーズ設定のあるデジタル時計を、わざわざ通販サイトで探して購入した。
こいつは私が設定した時間から五分経過するごとに再び鳴って、必ず私を叩き起こしてくれるのだ。この、可愛いやつめ。
そんな可愛い時計様は、突如として私を裏切った。
ふんわりと、自分の頭が覚醒しようとする感覚。
両目は未だに閉じたまま、いつものように
「ああ、ふへへ……こりゃ起きたくねぇよぉ……この寝起きの時間が一番気持ちいいんだよぉ……」
と、数分ほどニヤニヤする時間を設ける。
これが平常運転だ。そこ、気持ち悪いと言わないでいただきたい。
しかし、それからしばらくして、明らかに五分を越えているにも関わらず鳴る気配のないアラームに違和感を抱き、おもむろに暖かな日差しと気持ちの良い爽風を感じてからは早かった。
たいして形の良くない私の眉間と鼻梁と口角にあたる部分に、大量の皺が物凄いスピードで生産されていく。
おいおい、今は十二月も半ばであって、身にしみる寒さが凶器に変わる朝六時、こんなにサンサンとした太陽なんかまだまだ顔を出さないぞ。
そう。そうですね、ようするに。
「寝過ごしたんだよッッ!!!!」
私は慌てて布団を蹴り上げた。
その拍子に、昨日から履いていたままの新品のストッキングが尖った何かに引っかかったらしく、ものすごい音を立てながら某チーズのような手軽さで引き割かれていく。
「ギャア!!バカ!!穴の空いてないストッキングこれしかねぇんだぞッ!」
と、ついさっきまで可愛いと思っていたデジタル時計を心底憎みながらも自分の足元に目を向ける……。
…………。
……と、驚くなかれ、である。
私のストッキングチーズは、いつの間にやら、草にまみれていた。
いや、ストッキングだけではない。蹴り上げた布団。ベッドに手をついたはずの両手。昨日から着ている黒いスーツのいたるところに、雑草が張り付いていた。
そう、まるで芝生の上で長いこと寝ていたかのような。
というか、まさに今、どこまでも広がる草原におります。というか。
「…………ファー……?」
全身、余すことなく雑草まみれな私を、世界の果てまで永遠に続いていていてもおかしくないほど広大な草原が、出迎えてくれていた。
……いやしかし今日は良い天気だな。日差しがとてもあたたかい。長く降り続いた雨も嘘のようにやんでいる。
地面の土もずいぶんと乾燥して、良い具合にパサついているじゃないか。何が良い具合なのかは分からないが。
あまり頭が働かないのは、寝起きだからだろう。それとも元々の出来が悪いからだろうか。それはちょっと嫌だな。
いや待て、そもそも私は今、本当に目を覚ましているのか。これは本当に現実なのだろうか。
あまりにも、あまりにも現実味がなくて、あんなに降り続いていたはずの雨の音さえ聞こえない静かな空間に自分の心肺まで止まっているような気がして、慌てて深呼吸をする。
草特有の、生々しい臭いが鼻腔を通る。
爽やかな風が、再び私をなでていく。
さわさわと草原が波を打つ。
肩甲骨あたりにまである私の黒い髪が軽々と風に弄ばれ、そのまま頬を伝って再び胸元に流れていく。
排気ガスと人間関係に汚染されまくった現代社会とは、真逆の場所だ。
それが嬉しくて、まるで別の世界に逃げ込めたようで、思わず口角が上がった。
二度寝が趣味と言っても過言ではない私が、今やるべきことはひとつ。
「もっかい寝るか」
私はもう一度、雑草まみれの布団を被り直す。散策なんてしなくていい。せわしない現代とは、しばらくの間おさらばだ。心ゆくまでゆったりしよう。
もふもふ布団と大草原に包まれて、今は思う存分、この素晴らしい夢に浸ろう。
夏子さんは変態です。




