幕間 「海の上を」
私達は今、実際に海の上を歩いている。海の上だなんてなんの冗談だ。歩ける訳ないだろう。それこそ魚のような海にいる生物か。船のような文明の利器がないとなんて思うかもしれない。その返答は最も。何も間違ってなどいない。かく言う私もそちら側の人間だから。私もそんな答えを聞いたらそう答えると思う。だって人間は水の上は歩けない。
水の惑星と名高く世界の大半を海が閉めるこの世界に生きているのに水にあまり馴染めない私達、人間。その事実は寂しくもあり、やはり人間は不完全だなというのを知らしめるのには十分だ。しかし、今の私はその不可能を可能にしている。
どのような方法を用いているのか。泳いでいる?
まさか。
それならもののすぐに溺れてしまう。氷の魔女の靴。それのお陰だ。氷の魔女の靴は歩いた場所に氷を張る。それも私の意思で氷を張るか、張らないかを決める事が出来る代物だ。魔女様の灰は意思に関わらず自動的に垂れ流しのようだがこの靴は、もっと言えば炎の魔女のローブもそうだ。全ては私の意思に呼応してくれる。まさか、かってに存在した魔女もこんなみすぼらしい境遇の少女に自分の道具を使われているなんて思ってもいないだろう。死してなおその力をもう一度、振るう事となるなど。
でも、弱い人間がこの世界を渡り歩くにはこうするしかない。魔女が狂わせた世界には同じく狂った魔女の力を。与えられた力を最大限活用するしかない。
その時、後ろで鯨が跳ねた。大きな叫ぶような声とその巨体には似つかない華麗な跳躍。飛沫が跳ねて、波紋が伝う。海面に地震のような震え。
幸い、私達は離れていたから大きな影響を受ける事はなかった。けれど、肝を冷やした。
「危なかったね」
魔女様がのんびりと言う。
「危なかった」なんてものではない。万が一、私の氷の下から現れたら一たまりもなかった。これでは命が幾つあっても足りない。
「辺りに霧を」
だから、そう口に出して霧の魔女の力を行使。左手を横に凪ぐ。すると、辺りを谷の底と同じ霧が覆う。これならば、多少の目くらましになるだろうか。それとも海中に潜む生物には意味を為さないだろうか。しかし、気持ち程度にはなる。プラシーボ効果ではないけれどそんながあるくらいそう、人の心は安寧を求める。安寧があれば何事も自然と上手くいく気がする。だから、この霧はお守り代わり。そして、これらの力に頼るのも最後。私はそう決めている。
海の上で、確固たる自信を胸に歩みを進めていく。




