第十一話 「例え、世界がおわったとしても」
1
「リリー。ごめん。少し、眠る」
そう言った魔女様は突然、私の肩に頭を預けて眠り始めた。隣でスヤスヤと健やかな寝息が聞こえる。
魔女様が眠っている。珍しい事もあるものだ。ここまでで一度も眠っている姿を見た事はなかった。曰く、魔女の体は眠らなくても活動できるとの事だったから。
でも、もしかしたら顔に見せないだけで疲れたのかもしれない。今までの旅路だって長かったのだから。それに私という荷物まで抱えて。顔に出さず、口に出さなかっただけで多くの気苦労があったのかもしれない。
私は絵を書きながら、寄りかかる魔女様を受け入れる。
私の目の前にはどこまでも続きそうな煌びやかな夜空。それらを一つ一つ、丁寧に書き写していく。それこそ星の一つ一つまで、それを眺める私達も添えて。
今までは夢を見て、絵を描いて来た。けれど、今はこの記憶を忘れないよう、刻み込むような気持ちで描いている。心境の変化。これは旅のお陰。魔女様のお陰。そして、私は今の私が好きだ。だからこそ、忘れたくないと望む。
この時間を、この方といつまでも永遠に。思い出に、過去にしたくない。
世界の果てには何があるのか。
魔女様があれほど不安で満たされる何かがこの先にはある。あまり考えたくはない。考える、だけで、気が重くなる。
それこそ世界は終わるのかもしれない。今までなぁなぁで生きながらえてきたこの終末世界がやがて活動を終えるかもしれない。でも、例え、世界が終わったとしても私が魔女様と過ごした事は変わらない。
この時間を、この方といつまでも永遠に。思い出に、過去にしたくない。
でも、永遠なんてない事を私は知った。この世界にだってきっと終わりがある。閉ざされる時がくる。
だから、私はもう夢は見ない。その代わり望みを願う。
いつまでもこの記憶と思いがどうか生き続けますように、と。
流れる星に精一杯の「叶えて」という願いを込めて。
2
「魔女様。魔女様。」
呼びかける声。その声を聞きながら瞼をゆっくりと開ける。
「リリー。おはよう」
瞼を擦る。どうやら久しぶりに眠ってしまったようだった。
「はい。おはようございます」
おはようという明るさではないけれど。見飽きた日常。常識とは一線を画したズレがこの世界には生じている。それにも、もう慣れたけれど。
「お待たせしました。書き終わりました」
「うん。じゃあ行こうか」
腰を下ろしていた砂浜から立ち上がる。服に付いたサラサラとした砂を軽く払うと歩み出す。歩み出した足にリリーも続く。最後にもう一度、後ろを振り返る。砂浜の淡いクリーム色に白く灰が積もる。これを旅の中で見るのも最後だ。
物事の最後には思い出が駆け巡るというけれど、今の私にそれはない。でも、その代わりに隣にいるリリーと手を繋ぐ。
3
でも、それにしても行くってどこへ?
私は困惑してしまった。もちろん、私は魔女様の手に引かれるがまま、進むけれど。
「行くってどこに、ですか?」
でも、一応。聞いておく。なんだかこの感じは懐かしい。
「ん。向こう。この海の向こう」
魔女様がそう言った。指した指はどこまでも続きそうな地平線を指さしていた。
「あの向こうにある気がする。この夜空に浮かぶ月の下。私達の旅の終わりが」
だから行こう。手を引かれるままに。
「はい!」
返事をして波うち際、海の前へ。
足元に浸かる水を感じ、見据えながら。
そして、この海は私が前を歩く。導く。もちろん、今もこの旅が終わる、だなんて私は信じていないけど、でも、少しでも私の成長した背中を見せる事が出来ていれば良いな。
二人の気持ちは通じていく。仄かに香る終わりの匂い。その匂いを辿りながら、今はこの足に、そして背中に全てを乗せて。




