第十話 「冬月夜空 二(に)」
この世界を旅してきて分かった事が一つ。それは、案外、支離滅裂で滅茶苦茶なようなこの世界は意外と規則的である事。今だって、扉という区切りをもって海に抜けた。谷にしたってそうだ。谷の奥の洞窟を抜けて炎の街。リリーのいた街も森を抜けて谷と。
それぞれ国境かのように明確な区切りがある。
この法則が意味する事、それは一つの街に一匹の魔女がいる事。これは共通している。一か所に集中している訳ではない。だからこそカオスな事態になっていないとも言える。いや、ルールとでも呼べば良いか。だとしたら律儀だ。お互いがお互い干渉せず均衡を保つなんて。
私?
私はそうフリーだ。別に私はこの世界の住人ではないのだ。いうなれば、部外者。関係がない。
話が逸れた。言っている意味が分かるだろうか。でも分かってくれるまで私は待つつもりだ。時間はたっぷりとある。
なんて誰かに語り掛けては空を眺める。
つまり、一つの街を一人の魔女が破壊したという事だ。まるでテリトリーとでも言うかのように。多分、魔女達は自分の住んでいる場所(故郷)を狂わしたのだ。皮肉な事に。
それぞれの魔女が抱いていた感情を知りうる術はない。今はもう失われてしまった。神のみぞ知るところだろう。
まぁ、知りたくもないが。どの魔女も辿る末路は悲惨。谷の魔女はその身を捨てて道を踏み外し、炎の魔女は磔、氷の魔女は自らを氷に閉じ込める。どの魔女を顧みても、皆、辿った結末は負の感情ではないだろうか。だとしたら、私も。最後は幸せという訳にはいかないだろう。
何よりフェアじゃない。魔女とは一蓮托生であるべきかもしれない。沢山の人を苦しめた魔女にはそれ相応の結末が用意されているのかもしれない。
ならば、私も・・・。
いや、これ以上考えてしまうのはどうも私らしくない。
なれば、それを楽しみにしていれば良い。それに、元々、あの日、全てを捨てて海に沈んでいる身だ。今更、後悔などとうにないのだ。それこそ、この身朽ち果てて灰になるだけだ。私がここに来るまでに人や獣、魔女に対してそうしたように。でなければ不公平だ。それが責任。私自身が犯した罪に対しての罰。
思えばここから始まった。その音と景色はなんだか懐かしい。煌びやかな夜空と海。どこまでも続きそうな程の海岸線。帰って来たとでも言うべきか。
私が元の現実でずっと望んできたのはきっとこの世界。きっと今、あるような世界だ。
でも、今は?
今の自分が望むのもこの世界だろうか。
望んでいた時には考えもしなかった。願いが叶った上で、疑問に思う時が来る、なんて。答えは出なかった。自分でも分からなかった。正解を選びたいけれど、一体、何が正解で何がダメなのか。普通ではない私にはやっぱり。結局。
これから世界はどうなるのだろう。いや、変わらないのだろう。愚かな街。死が蔓延る谷。炎に包まれる街。そして、雪原。そのどれもがこれからも何一つ、変わる事無く続いていくのだろう。新たな希望が生まれるわけでもなく、終わりが来るわけでもなく。これからも夜の闇に照らされるのだろう。
私はどうだ?
それらを見て何か思っただろうか。自我を失った谷の魔女を見て憐れだとか燃え続ける人々を見て可哀想だとか。氷漬けになっている氷の魔女を見て何を思っているのだろうといった疑問を持つだとか。
いや、それら自体に対してはそう言うものだと思っていたから無かったな。どれを見ても心が揺り動かされる事はなかった。
リリーの好意にだって応えられない。こうして旅が終わりに近づいても。私がこの旅で得たものはあるのだろうか。
突如として無性に不安に満たされていく。
ああ、私はどうすれば・・・。
ああ、今日の私は本当に、らしくない。
今は自分が分からない。まるで靄がかかったようにくっきりとしない。
だから、それを拭うように。
隣にいるリリーへ寄り添い触れ合う。
やがてリリーは砂浜に腰を下ろして絵を書き始めた。波の音の中にペンを走らせる音が混じる。その音を聞きながら目を閉じた。
なんだか、眠たい。
この体に睡眠など必要ないのに。
心が落ち着く。その音に耳を澄ませながら。いつの間にか隣にあって当たり前となったぬくもりを肌に感じ、
まぁ、今は何も考えなくて良いか、なんて思って。




