第九話 「私の答え」
1
雪原の最果て、氷の魔女が凍り漬けになっていたさらに奥の扉を抜けるとそこは海だった。見渡す限りの海岸線。それはまるでどこまでも続きそうだった。そして、目の前では私の目当ての人物を発見。魔女様は海を前に座っている。氷の城では結局、一言も喋る事はなかった。そして、未だ私は踏み出すのを恐れている。
でも、いつまでも逃げ続けられない。事態はもう手遅れ、な所まで来ているのだ。ならば、どんな形であれ進むしかない。例え、震える足を引きずろうとも、前へ、前へ。
ゆっくりと砂浜に足跡を作りながら歩いて行く。サラサラとした感触を持つ砂は魔女様の灰によく似ていた。
「あの、魔女様。隣、良いですか?」
「・・・・・・・・。」
魔女様は答えてくれない。二人の間に会話はない。
「隣、座りますね」
そう言って、持ってきた氷の魔女の靴を先に置いて、その後に座る。
魔女様の長い白髪がただ夜風に揺れていた。
2
「ねぇ、魔女様。奇麗ですね」
何がとは敢えて言わなかったが、それを意味するのはこの旅で散々、お世話になった大きな月と煌びやかな夜空。月はもう私達の目の前まで来ていた。
「うん。そうだね」
魔女様は、やっと口を開いて、返事をしてくれた。それだけで私の心には温かい気持ちが広がっている。たったそれだけで頭から足先まで何者にも代えがたい喜びの波が広がっていく。
自分自身でも、相当毒されているなと思う。
思えば、不思議だ。あの街ではずっと道具として生きて来たのに。それが今は、信じられない位にまるで息を吹き返したかのようにとめどなく気持ちが溢れている。
この旅では色々あった。楽しい事、辛い事、どうしようもなく受け入れがたい現実、はたまたいつまでも見ていたい夢もあった。
その度に、私の中では様々な思いが駆け巡って来た。そのどれもが紛れもなく宝物。いつまでもキラキラと輝いてはかけがえもなく輝いている。この星々のように。
そして、その隣にはいつも貴方がいた。私の描く絵にもいつの間にか貴方が映り込んでいる。
心に占める比重もいつかは貴方の事ばかり。
(ねぇ、魔女様。道具に心を宿した罪は重いのですよ)
だから、いつまでもうじうじと続けるのはもう辞めた。きっとお互いのためにならない。だから、溢れ出る気持ちを今、伝えよう。
3
「ねぇ、魔女様。好きです」
ついに口から出た言葉。もう後戻りはきかない。
貴方の事がどうしようもなく。いつでも私を連れ出して、助けてくれた貴方の事が。憧れはいつしか恋心に変わっていました。迷惑かと思いますが、溢れ出る気持ちはもう無視する事が出来ません。女の子同士だとかそんな事はどうでも良いのです。
ただ、貴方が好きなのです。それだけなのです。貴方はこの世界で、私を照らす光で、道標なのです。この暗闇の世界で唯一、許された希望なのです。
それに手を伸ばす、愚かな私をどうか、どうか許してください。報われなくても良いのです。ただ、どうか返事をしてください。それだけで私は満足なのですから。
永遠にも変わるような沈黙。いや、実際はほんの一瞬だったのかもしれないが私にはそう感じた。
沈黙の後、魔女様は
「そう」
とだけ言った。そして、
「私も嬉しい」
なんて。
辞めてくれ。期待してしまう。
「でも、ごめん。リリーの気持ちには答えられない」
そして、バラバラに崩れ去った。これが旅の終わりなのかとそう思った私。でも、魔女様は再び、口を開く。
「ねぇ、リリー・・・」
珍しく魔女様が迷っている様子。そして、意を決したように。
「それでも、付いてきてくれる?」
「この旅を見届けてくれる?」
私は目を見開く。私の気持ちはやっぱり報われなかった。けれど、それでも旅を続けようとは言われると思ってなかったから。
数秒の逡巡。魔女様は私の答えを確かに待っている。その瞳をかってない程、不安で揺らしながら。
この旅の果てに何が待っているのかは分からない。魔女様がそれだけの不安を抱える何かが待ち受けているとは到底、思えない。
けれど、私はその不安に揺れる瞳を見たら、もう答えは決まってしまった。いや、一つしか、なかった。
「付いていきます。ええ、どこまでも」
貴方が望むなら。
私はきっと、見届けましょう。
だって、私はあの街でただ朽ちていくだけだったのですから。




