墜落の罠(デコイ)
「——そこじゃッ!!」
拳士の瞳が、一点を射抜いた。
鴉が再び高く跳躍しようと、脚部アーマー『飛天』にエネルギーを充填した刹那。重力から解放される瞬間の、わずかな「静止」。拳士は全エネルギーを右拳に集中させ、渾身の一撃を突き出した。
手応えがあった。だが、あまりに軽すぎた。
「……残念だったな、広島の狼」
霧の向こうから、冷酷な嘲笑が聞こえる。
拳士が撃ち抜いたのは、鴉の本体ではなかった。鴉は跳躍の直前、背部ユニットのダミー装甲をパージし、それを「影」として霧の中に残したのだ。渾身の右は、虚空を舞う鉄屑を粉砕したに過ぎなかった。
「ジャンプの瞬間が弱いことなど、百も承知。……誘ったんだよ、お前のその『必殺の一撃』をな!!」
頭上。本物の鴉は、照明器具のさらに上、漆黒の闇の中に潜んでいた。
拳士の右は伸びきり、体勢は完全に崩れている。必殺の一撃を外した後の硬直は、そのまま「死」を意味する。
「死ねッ! 天狗・落とし!!」
鴉が両足を揃え、弾丸となって急降下してくる。重力と脚部シリンダーの噴射を乗せた、文字通りの必殺の蹴撃。それが、拳士の無防備な背中に向かって一直線に迫った。
「……しまっ……た……」
「拳士ィッ!! 伏せろォォ!!」
畑山が身を乗り出して叫ぶが、届かない。
避ける時間は、一秒もない。
拳士は、崩れた体勢のまま、地面に左手を突いた。
防御でも回避でもない。自分の体を「独楽」のように回転させ、鴉の落下の衝撃を逃がすのではなく、回転エネルギーに変える。
鴉の蹴撃が、迫る。




