表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『寿命の拳(からくり・ボクシング)』  作者: 水前寺鯉太郎
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/54

揺らめく影、佐世保の底力

「——あーあ、リキの奴、高みの見物なんて柄じゃないやんね」

 第三リング。菊池は観客席で退屈そうに鼻を鳴らす力武を横目に、軽く肩を回した。

 対戦相手は、三次の「のっぺらぼう」と呼ばれる男、泥水。その名の通り、泥水は構えを持たない。上半身を柳のようにゆらゆらと揺らし、関節があるのかさえ疑わしい動きでリング上を漂っている。

 「……捕まえどころがないね。幽霊とボクシングしてるみたいだ」

 リング下で伊勢谷が呟いた。泥水の動きには「起点」がない。どこからパンチが飛んでくるか、どこに重心があるか、視覚情報が全て攪乱されていた。

 「ひょいッ、ひょいッ」

 泥水が奇妙な声を上げながら、予測不能な角度から拳を突き出す。菊池はそれを紙一重でかわすが、泥水の体はそこからさらにしなり、背後から腕が回ってくるような軌道で側頭部を狙った。

 「ガッ!!」

 「……ちっ、気持ち悪い動きやんね。佐世保の海にも、こんなヌルヌルした奴はおらんかったばい」

 避けたと思った場所から「生えてくる」ように追撃が来る。菊池は翻弄され、徐々にリングの端へと追い詰められてゆく。

 「どうした、佐世保の。王者の相棒が、ただの『添え物』だったって証明してやるよ」

 泥水の体が低く沈み込み、そこからバネのように跳ね上がって、菊池の顎へ変幻自在の右を放った。

 「——添え物? ……ハッ、笑わせんで」

 菊池の瞳が、冷徹な光を放った。

 彼は泥水のパンチを避けるのをやめ、揺らめく腕を自分の腕で「絡め取った」。

 「……何ッ!? この状態で……!」

 「リキの相手をずっと務めてきた俺が、軟弱なパンチで倒れるわけなかろうが。……お前の動きは、波と同じたい。……引く時が、一番脆い」

 菊池のからくりアーマーが激しく火花を散らす。泥水の流動性が、絡め取られた腕を支点に強制的に止まった。

 「——沈め、泥水ッ!!」

 ショートフック。急所だけを的確に撃ち抜く、鋭く速い一撃。

 「カハッ……ッ!!」

 泥水の「ゆらゆら」が止まり、その肉体が真っ直ぐに崩れ落ちた。

 菊池はふう、と息を吐き、乱れた髪をかき上げた。

 「リキがいなくても、俺一人で十分たい。……拳士、伊勢谷。準決勝で待っとるばい」

 観客席の力武が、満足げに笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ