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『寿命の拳(からくり・ボクシング)』  作者: 水前寺鯉太郎
第二章

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凍りついた一秒

「——そこじゃッ!!」

 拳士は霧の中を低く潜り、入道の左サイドへ高速で回り込んだ。伸びる腕の弱点は、直線的な攻撃ゆえの「横」への脆さにある。一度伸びきった腕が戻るまでのコンマ数秒、本体の脇腹は無防備なはずだった。

 拳士は最短距離の右を放とうとした。

 だが。

 「……見えてるよ、狼。お前がそう動くことくらい」

 入道の冷徹な声。次の瞬間、入道の右肩から「ガキンッ」という不吉な機械音が響いた。

 通常、サイドへ回った相手には身体の向きを変えなければ攻撃は届かない。しかし、入道の伸縮アームにはさらに「旋回用」の関節ユニットが組み込まれていた。

 「ロングアーム……クロスカウンター!!」

 拳士がパンチを繰り出すよりも早く、入道の右腕が鞭のようにしなり、拳士の死角から急旋回して襲いかかった。からくりエネルギーを限界まで充填した一撃が、拳士の顎を正確に撃ち抜いた。

 「——カハッ……!!」

 脳が激しく揺れ、景色が万華鏡のように歪む。拳士の視界から色が消え、ウォッチから命が溢れ出した。

 『致命的損傷を検知。寿命、緊急喪失——一年、二年……四年!!』

 拳士の膝が、霧で濡れたキャンバスに崩れ落ちた。

 「拳士ィッ!!」「小松原くん!!」

 畑山と伊勢谷の叫びが、霧の向こう側に遠く聞こえる。

 「……無駄だよ。俺の腕は、どこに逃げようが追い詰める『地獄の鎖』だ。お前にはもう、避ける寿命も、耐える時間も残っていない」

 入道は三メートル以上伸びきった右腕をゆっくりと巻き戻しながら、勝ち誇ったように見下ろした。

 意識が遠のく中、拳士の指先が冷たい地面を掻いた。

 (……届かない。回り込んでも、打とうとしても、あの腕が先に届く)

 「……はは……そうか。……綺麗に避けようとするから、当たるんだ」

 拳士の口元に、血に塗れた笑みが浮かんだ。

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