油圧の悲鳴
「——死ねッ、サセボ!!」
ウォルターの巨大な右拳が、力武の頭上から断頭台のように振り下ろされた。
だが、力武は動かなかった。あえてその「圧」の直下に身を投じ、上半身を極限まで沈め、ウォルターの右腕の「内側」へと滑り込んだのだ。拳士が、伊勢谷が、観客の誰もが力武の頭蓋が砕ける音を覚悟したその瞬間だった。
「……っ、何っ!?」
ウォルターの油圧駆動系が、標的を見失い空を切る。
力武が狙ったのは、顔面でも胴体でもなかった。ウォルターの巨大な右肩、その装甲の継ぎ目にある「油圧シリンダー」の接続部。
「——そこたいッ!!」
力武の右拳が、一点に全ての質量を集中させた「穿孔打」となって突き刺さった。
「ギィィィィィィィィッ!!」
アーマーから、耳を裂くような金属の悲鳴が上がった。一点に集中した衝撃が油圧システムを内部から破裂させる。黒いオイルが霧のように吹き出し、ウォルターの巨大な右腕が機能を失った鉄屑となってダラリと垂れ下がった。
「ア、アアアァァッ!? 俺の『タイタン』が……内部から壊されたというのか!?」
「重かだけじゃ、俺の魂は潰せんばい」
力武の瞳に、鬼の火が灯る。バランスを崩したウォルターに対し、力武は容赦のない連打を叩き込んだ。油圧の生命線を、一つ、また一つと正確に断ち切っていく。
「ガッシャァァァン!!」
最後は、全体重を乗せた左フック。二メートルの巨躯が、スローモーションのように傾き、特設リングを大きく揺らして沈んだ。
『寿命奪取を完了しました。+50年』
ウォッチが、かつてないほどに長く荘厳な電子音を奏でた。
力武は荒い呼吸を整えながら、倒れたウォルターを見向きもせず、観客席の拳士に向かって不敵に笑った。
「……拳士。見たか。……『一秒』の中にある、壊すべき『一点』を」
拳士は、震える手で自分の右拳を握りしめた。
「……ああ。見えたよ、力武」
「伊勢谷。……俺、明日からまた坂本さんに挑むわ。今度は、逃げる一秒じゃなく、貫く一秒のために」




