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『寿命の拳(からくり・ボクシング)』  作者: 水前寺鯉太郎
第二章

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嵐を呼ぶ遠征者(ビジター)

第40話:嵐を呼ぶ遠征者ビジター


 【1】

 「——よっ。相変わらず、ここはドブ板の臭いのするジムばい」

 坂本の右フックが拳士の顔面を掠める直前、ジムの入り口から響いた不敵な野次が、その場の空気を一瞬にして凍りつかせた。

 入り口に立っていたのは、佐世保の荒波をそのまま持ち込んだような異様な威圧感を放つ二人組——力武と菊池だった。力武のウォッチには、具志堅から奪い取った膨大な「勝利の寿命」が、眩いばかりの輝きを湛えて刻まれている。

 「……力武、それに菊池さん」

 拳士はグローブを構えたまま、リング上から二人を射抜くように見つめた。

 【2】

 「何の用だ、長崎。ここは遊び場じゃねえぞ」

 畑山がリングロープを飛び越え、力武の前に立ちはだかる。

 「冷たか。明後日、可部かべの方である地方興行に招待されたけん、調整のために寄らせてもらったとたい。……まあ、一番の理由は、広島の狼さんがまだ息しとるか確認しに来たとばってん」

 力武はそう言うと、リングの上で拳を握っている坂本に視線を移した。

 「……ほう、見慣れん面ばい。そっちのデカいのは、誰ね?」

 【3】

 「坂本博だ。……お前が、あの具志堅を沈めたっていう『長崎の鬼』か」

 坂本は臆することなく、リング上から力武を見下ろした。

 「いい『マブイ』を持ってるな。だが、ライト級から落としてきた俺のパリーを、お前のその無茶苦茶なステゴロでぶち破れるかな?」

 「面白か……。盾だか板だか知らんが、俺の拳でひしゃげんもんは、この世に鉄板以外なか」

 一触即発。ジムの室温が、物理的に数度上がったかのような錯覚を覚えるほどの殺気が渦巻く。

 【4】

 「おい力武、勝手に喧嘩を始めるなと言っただろうが。……竹原さん、ご無沙汰しております」

 菊池が苦笑いしながら、竹原に一礼した。

 「長崎の坊主どもか。……可部の試合に出るんじゃな。あそこは古い興行主が仕切っとる『寿命ときの賭け場』じゃ。……長崎からわざわざ来るいうことは、相当な『賞命しょうめい』が懸かっとるんじゃろう?」

 「——ええ。勝てば三十年。負ければゼロ。……まさに、俺たち向きの戦場ですよ」

 菊池の言葉に、ジム内にどよめきが走った。三十年。それは一人の人間が、文字通り「一生」を賭けて戦うに等しい、異常なレートの試合だった。

 【5】

 拳士は、握りしめた拳をゆっくりと解いた。

 (力武は、もうそんな場所で戦ってるのか……。俺が坂本の防御をどう崩すかなんて悩んでる間に、あいつはまた、死の淵を歩こうとしてる)

 「力武ッ!!」

 拳士の叫びに、力武が足を止めて振り返った。

 「……明後日の試合、俺も見に行かせてもらう。お前がその三十年をどう掴むのか、その目に焼き付けてやる」

 「——よかよ。見とけ、拳士。……システムの枠に収まりきらん『本物の命』の削り合いば、な」

 【6】

 二一〇一年、一月。

 広島・可部の古い野外リングを舞台に、再び運命の歯車が回り出す。

 坂本という新たな敵、そして力武という高すぎる壁。

 小松原拳士の「一秒」を巡る戦いは、ジムを飛び出し、より過激で、より血なまぐさい「野良の戦場」へとその舞台を移そうとしていた。

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