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『寿命の拳(からくり・ボクシング)』  作者: 水前寺鯉太郎
第二章

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嵐を呼ぶ遠征者(ビジター)

「——よっ。相変わらず、ここはドブ板の臭いのするジムばい」

 坂本の右フックが拳士の顔面を掠める直前、ジムの入り口から響いた不敵な野次が、その場の空気を一瞬にして凍りつかせた。

 佐世保の荒波をそのまま持ち込んだような二人組——力武と菊池だった。力武のウォッチには、具志堅から奪い取った膨大な「勝利の寿命」が眩いばかりの輝きを湛えて刻まれている。

 「……力武、それに菊池さん」

 拳士はグローブを構えたまま、リング上から二人を見つめた。

 「何の用だ、長崎。ここは遊び場じゃねえぞ」

 畑山がロープを飛び越え、力武の前に立ちはだかる。

 「冷たか。明後日、可部の方で地方興行に招待されたけん、寄らせてもらったとたい。……まあ、一番の理由は、広島の狼さんがまだ息しとるか確認しに来たとばってん」

 力武はそう言うと、リング上の坂本に視線を移した。「……ほう、見慣れん面ばい。そっちのデカいのは、誰ね?」

 「坂本博だ。……お前が、あの具志堅を沈めたっていう『長崎の鬼』か」

 坂本は臆することなく、リング上から力武を見下ろした。「いい『マブイ』を持ってるな。だが、ライト級から落としてきた俺の盾を、お前のその無茶苦茶なステゴロでぶち破れるかな?」

 「面白か……。盾だか板だか知らんが、俺の拳でひしゃげんもんは、鉄板以外なか」

 一触即発。

 「おい力武、勝手に喧嘩を始めるなと言っただろうが。……竹原さん、ご無沙汰しております」

 菊池が苦笑いしながら、竹原に一礼した。

 「長崎の坊主どもか。……可部の試合に出るんじゃな。あそこは古い興行主が仕切っとる『寿命の賭け場』じゃ。相当な賞命が懸かっとるんじゃろう?」

 「——ええ。勝てば三十年。負ければゼロ。……まさに、俺たち向きの戦場ですよ」

 菊池の言葉に、ジム内にどよめきが走った。三十年。文字通り「一生」を賭けるに等しい、異常なレートだった。

 「力武ッ!!」

 拳士が叫んだ。力武が足を止め、振り返る。

 「明後日の試合、俺も見に行かせてもらう。お前がその三十年をどう掴むのか、この目に焼き付けてやる」

 「——よかよ。見とけ、拳士。……システムの枠に収まりきらん『本物の命』の削り合いば、な」

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