鉄の咆哮、鷲の墜落
極限を超えた先、二人の体が交差した。
「ガッ!!」
鈍く重い衝撃音がアリーナに響く。からくりのブーストさえ失った生身の足が、互いの頬の骨に食い込んだ。
一瞬、時が止まった。
力武の足が、キャンバスを深く抉る。佐世保の造船所で巨大な鉄の質量を支え続けてきた足腰は、意識が飛びかけた今この瞬間も、地面に根を張るようにして踏みとどまった。
一方、具志堅の膝から力が抜けた。
「……は……っ……あ……」
彼の技術も、零コンマ一秒の判断も、すべては王者のものだった。だが、システムによって最適化された彼のスタミナは、規定外の第五ラウンドという「空白の時間」に耐えられるようには設計されていなかった。
鷲は、翼を失ったのではない。ただ、空を飛ぶための風が、彼の内側から完全に消え失せたのだ。
ゆっくりと、崩れ落ちる具志堅。キャンバスに沈むその音は、驚くほど静かだった。
「——そこまでッ!!」
審判が二人の間に割って入った。具志堅はピクリとも動かない。
審判が、力武の右手を高く掲げた。
「勝者、長崎代表、力武・菊池タッグ!!」
宣告と同時に、アリーナを埋め尽くした静寂が爆発した。
『寿命移譲を完了しました。+12年』
「……はぁ……はぁ……見たか、ワシ野郎……。鉄板は、風じゃびくともせんばい」
力武はそう呟くと、倒れた菊池の元へ歩み寄り、無造作に抱え上げた。血に染まった顔で、ニヤリと笑う。
観客席の拳士は、その光景を魂に焼き付けていた。
「……勝った。力武が、あの具志堅に勝ったんだ」
負けた自分がいる。そして、その自分を絶望させた男を、さらに力技でねじ伏せた男がいる。名前の付けられない熱い感情が、拳士の胸を突き上げてくる。
「——終わったのう。……だが、始まったばかりでもあるわい」
竹原が、満足げに鼻を鳴らした。
「拳士。……一秒を永遠に引き延ばす道、見えてきたか?」
拳士は答えなかった。ただ、自らのウォッチを強く握りしめた。




