不滅の五拍子(エンドレス・ビート)
「——ナインッ!!」
審判の絶叫がアリーナに響き、その腕が「テン」を告げるために振り下ろされようとした、その刹那だった。
力武の血塗られた右手がキャンバスを掴み、具志堅の砕けた左足がバネのように弾けた。
二つの肉体が、同時に、完璧に同じタイミングで立ち上がった。
「……う、嘘だろ……」
観客の誰かが漏らした呟きが、静寂を破る合図となった。割れんばかりの咆哮がアリーナを包み込む。引き分けによる寿命全徴収のはずだった。だが、二人の瞳に宿るシステムさえも焼き切るような殺意の光が、審判の宣告を躊躇わせた。
二人は無言のまま、再び拳を構えた。
力武のアーマーはもはや九割が消失し、剥き出しの背筋から過熱した陽炎が立ち昇っている。対する具志堅も、『島風』をすべてパージし、生身の体で対峙していた。ウォッチの残量は、両者共に「数日」を切っている。
「……規定ラウンド終了。だが、両者続行の意志ありと見なす!!」
審判が青ざめた手でゴングを叩いた。
「——第五ラウンド、開始ッ!!」
カァァァン、という乾いた音が世界の終わりのように鳴り響いた。
二人は同時に踏み込んだ。「零コンマ一秒」の駆け引きも、排熱の読み合いも存在しない。相手の存在をこの世から消し去るためだけの、純粋な物理的衝突。
観客席の拳士は、立ち上がることもできずに震えていた。
「……あいつら、もうウォッチを見てねえ。……自分の命がどれだけ残ってるかさえ、どうでもよくなってやがる」
「計算不能……」
伊勢谷が、端末を握りつぶさんばかりに呟いた。それだけだった。
力武の右が具志堅の脇腹を抉れば、具志堅の左が力武の喉元を打つ。当たれば死ぬ。外れても死ぬ。そんな「死」の網目を縫い合わせるように、二人の拳が空気を切り裂き続ける。
「——長崎ィッ!!」
「——沖縄ァッ!!」
二人の咆哮が重なり、リング中央で激しい火花が散った。アーマーの火花ではなく、魂が摩擦して発せられる、命の最後の一閃だった。
その時、拳士のウォッチが不気味に共鳴した。敗北して止まっていたはずの秒針が、リング上の二人の熱に当てられたかのように、激しく震え始める。
「……一秒を燃やすんじゃねえ。……一秒を、永遠に引き延ばすんだ……!」




