瓦解する均衡(バランス)
第四ラウンド。
「ガッシャァァァン!!」
力武の右ストレートが具志堅の肩口のアーマーを粉砕すれば、その反動を利用した具志堅の左が、力武の胸部装甲を内側から引き裂く。飛び散るセラミックの破片と漏れ出す高圧の蒸気がリングを白く染め、二人の姿を断続的に隠した。
「……はっ、はっ……どうしたワシ野郎! 自慢の計算はどこに行ったったいッ!!」
力武は顔面の半分を血に染めながら、狂ったように笑った。
具志堅の眉間を力武の拳が捉える。だが具志堅はその衝撃を「推進力」に変えて前に出た。力武の顎先を、右アッパーが跳ね上げる。
「——計算は捨てたよ、長崎。君という『不合理』を殺すには、俺もまた不合理になるしかない」
一方が打てば、一方が打ち返す。防御という概念は、両者の頭の中から消滅していた。一撃ごとにウォッチの数字が凄まじい速度でカウントダウンされていく。
『マイナス一ヶ月……三ヶ月……半年!』
一分、また一分と、二人の未来が火花となってリングに散っていく。
観客席の拳士は、言葉を失っていた。
「……あいつら、止まる気がねえぞ。どっちかが『死ぬ』まで、この乱打は終わらねえ」
「——限界を超えた共鳴じゃ」
竹原が、短くなった煙草を吐き捨てて言った。「拳士、お前はあそこに入っていけるか?」
力武のアーマーがすべて剥がれ、生身の筋肉が剥き出しになる。具志堅の『島風』もまた、翼を毟られた鳥のように無残にひしゃげ、内部の回路が虚しく火花を散らしている。
「死ねッ!!」
「落ちろッ!!」
二人の叫びが重なり、互いの拳が同時に相手の顔面に突き刺さった。




