宿命の頂上決戦
二一〇〇年十一月末。広島グリーンアリーナ。
超満員の観客席の片隅で、拳士は顎を固定する包帯の上から、苦々しくリングを見つめていた。隣には全身を湿布の臭いで包んだ伊勢谷が、無表情に座っている。二人のウォッチが刻むのは、敗北によって削り取られた「数年」という短すぎる余生だ。
「……見ていろ、小松原くん。僕たちが届かなかった『零コンマ一秒』の先で、何が起きるのかを」
「決勝戦。……長崎、始めようか」
青コーナー。具志堅が静かに「左」を構える。一分の乱れもない。
対する赤コーナー。力武が不敵な笑みで生身の拳を突き出した。
「よかよ、ワシ野郎。……その綺麗な羽ば全部毟って、佐世保のドブ川に沈めてやるたい」
ゴングが鳴った。
開始一秒。拳士を二度沈めたあの閃光が、力武の顔面を真っ向から捉えた。
「ガッ!!」
だが、力武は倒れなかった。首の筋肉を岩のように硬直させ、衝撃を「正面から受け止めた」のだ。
「……遅か。拳士のカウンターの方が、まだ『重さ』のあったばい」
力武の瞳に、凶々しい赤光が宿る。
そこからは、システムと物理の削り合いとなった。具志堅が零コンマ一秒の隙を突いて十発の「点」を打てば、力武はそれを肉体で耐え凌ぎ、たった一発の「面」の暴力でアーマーをひしゃげさせる。伊勢谷がはじき出す予測データは、両者の異常なエネルギー消費によって刻一刻と書き換えられていった。
「……拳士。あいつらを見て、何を思う」
背後から竹原が静かに声をかけた。
「具志堅は『最適解』だ。力武は『不条理』だ。……その答えが分からん限り、お前は一生、その特等席から降りられんぞ」
リング上では、具志堅の「双位・カウンター」に対し、力武が「相打ち前提の頭突き」でシステムをバグらせようとしている。
拳士は、握りしめた拳が白くなるのを自覚した。
「……俺は……」
包帯の下で、低く呻く。
「俺はあいつらを、特等席で見学するためにここに来たんじゃねえ……!」




