砕かれた雅(みやび)
空気が凍りついたのは、一瞬だった。
排熱を断ち「無」となった力武の一撃が、中川の完璧な予測網を突き破った。防御が遅れた中川の胸元に、力武の右拳が、そして横から回り込んだ菊池の左拳が、吸い込まれるように叩き込まれた。
「——しまっ……!?」
中川の唇から、初めて余裕の消えた動揺が漏れる。だが、もう遅い。
「ガッシャァァァァァァン!!」
アリーナ全体に、重機が衝突したような金属破壊音が鳴り響いた。漆黒のアーマー『千年の影』が、着弾点からひび割れ、ガラス細工のように弾け飛ぶ。
「雅とか何とか……。そんなもんで、俺たちの重さは計れんばいッ!!」
力武の咆哮と共に、中川の身体はくの字に折れ曲がり、キャンバスへと叩きつけられた。リングの床が波打ち、中川のウォッチから寿命エネルギーが青白い火花として溢れ出す。
かつての京都王者は、扇を振るう余裕など微塵もなく、剥き出しの生身で沈黙した。
相棒を失った田代もまた、菊池の追撃を浴びてマットを舐めた。
「……テン! 勝者、力武、菊池タッグ!!」
『寿命移譲を完了しました。+12年』
力武は勝利の余韻に浸ることなく、拳についた中川のアーマーの破片を忌々しそうに振り払った。
「……ちっ、手応えのなか。やっぱり鉄板ば叩いとる方が、まだマシばい」
力武はそう吐き捨てると、一点を見つめた。医務室のモニター越しに自分を見つめているであろう、あの男へ向けて。
「見たか、広島。……次は、あのか細いワシの首ば、俺がへし折ってやるたい」
医務室のベッドに座る拳士は、握りしめた拳が白くなるほどモニターを睨みつけていた。
「……力武の野郎、あんな無茶苦茶な勝ち方があるかよ」
「——決勝戦まで、まだ『一秒』は残っとるわい」
竹原が、壁に寄りかかりながら静かに言った。
それだけだった。
決勝のカードが決まった。沖縄・具志堅&我那覇。長崎・力武&菊池。




