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『寿命の拳(からくり・ボクシング)』  作者: 水前寺鯉太郎
第一章

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砕かれた雅(みやび)

空気が凍りついたのは、一瞬だった。

 排熱を断ち「無」となった力武の一撃が、中川の完璧な予測網を突き破った。防御が遅れた中川の胸元に、力武の右拳が、そして横から回り込んだ菊池の左拳が、吸い込まれるように叩き込まれた。

 「——しまっ……!?」

 中川の唇から、初めて余裕の消えた動揺が漏れる。だが、もう遅い。

 「ガッシャァァァァァァン!!」

 アリーナ全体に、重機が衝突したような金属破壊音が鳴り響いた。漆黒のアーマー『千年の影』が、着弾点からひび割れ、ガラス細工のように弾け飛ぶ。

 「雅とか何とか……。そんなもんで、俺たちの重さは計れんばいッ!!」

 力武の咆哮と共に、中川の身体はくの字に折れ曲がり、キャンバスへと叩きつけられた。リングの床が波打ち、中川のウォッチから寿命エネルギーが青白い火花として溢れ出す。

 かつての京都王者は、扇を振るう余裕など微塵もなく、剥き出しの生身で沈黙した。

 相棒を失った田代もまた、菊池の追撃を浴びてマットを舐めた。

 「……テン! 勝者、力武、菊池タッグ!!」

 『寿命移譲を完了しました。+12年』

 力武は勝利の余韻に浸ることなく、拳についた中川のアーマーの破片を忌々しそうに振り払った。

 「……ちっ、手応えのなか。やっぱり鉄板ば叩いとる方が、まだマシばい」

 力武はそう吐き捨てると、一点を見つめた。医務室のモニター越しに自分を見つめているであろう、あの男へ向けて。

 「見たか、広島。……次は、あのか細いワシの首ば、俺がへし折ってやるたい」

 医務室のベッドに座る拳士は、握りしめた拳が白くなるほどモニターを睨みつけていた。

 「……力武の野郎、あんな無茶苦茶な勝ち方があるかよ」

 「——決勝戦まで、まだ『一秒』は残っとるわい」

 竹原が、壁に寄りかかりながら静かに言った。

 それだけだった。

 決勝のカードが決まった。沖縄・具志堅&我那覇。長崎・力武&菊池。

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