表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『寿命の拳(からくり・ボクシング)』  作者: 水前寺鯉太郎
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/54

静寂を裂く鉄の唸り

「……ちっ、捉えきれんばい」

 力武は荒い呼吸と共に後退した。放った拳はすべて、中川の指先一つで軌道を逸らされ、空を切る。逸らされるたびに「六条の針」がアーマーの隙間を突き、右腕は徐々に感覚を失い始めていた。

 「無意味な抵抗はやめなさい、佐世保の。あなたの拳は、雅な静寂を汚すノイズに過ぎません」

 中川が冷徹な瞳で力武を見据える。

 その時、田代の「糸」に翻弄されていた菊池が、血を吐きながら叫んだ。

 「力武ェ! あいつら、俺たちの『動き』ば見とるんじゃなか! アーマーの排熱の揺らぎば読みよるったいッ!」

 力武の思考が火花を散らした。

 排熱。からくりアーマーが寿命を燃焼させる際に出る、不可視の熱エネルギー。攻撃が届くコンマ数秒前に、その着弾地点を予測される。

 「……なるほどな。綺麗か技術にゃ、必ず裏のあっとか」

 力武は口の端を吊り上げ、ガードを固めてじっと動かなくなった。

 中川が眉をひそめる。「諦めましたか? 賢明な判断です。……トドメを刺して差し上げましょう」

 踏み込む。狙いは力武の喉元。

 その瞬間、力武は全寿命を、加速ではなく「冷却」に回した。

 「——今たいッ!!」

 アーマーの排熱が、一瞬だけ完全に消失した。

 中川のセンサーが力武の姿を見失う。予測ラインが消え、指先がわずかに泳いだ。

 そのコンマ数秒。

 力武は動かなくなったはずの右腕を、根性で引き抜いた。

 「計算通りに行かんのが、喧嘩の面白かところばいッ!!」

 排熱を無視した純粋な物理的質量が、中川の完璧なガードの内側へ食い込んだ。

 「バキィィィィィン!!」

 漆黒のアーマーが激しい火花を散らしてひび割れた。

 「なっ……私の予測を、物理的に上回ったというのか!?」

 中川が初めて驚愕に顔を歪める。

 「菊池ィ! 今ばいッ!!」

 力武の咆哮に応え、糸を振り払った菊池が田代の背後から「佐世保の鉄槌」を振り下ろそうとしていた。

 医務室で、拳士はモニターを食い入るように見つめていた。

 「……力武の野郎。からくりの理屈を、力技で壊しやがった」

 「——お前も今のを見たか?」

 竹原が、拳士の隣で小さく頷いた。

 拳士は答えなかった。ただ自分の右拳をじっと見つめ、具志堅に敗れた「零コンマ一秒」を埋めるための、新たな回路が頭の中で繋がり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ