古都の毒、港の鉄
「勝者、具志堅、我那覇タッグ」
非情な宣告がアリーナに響き渡る中、拳士と伊勢谷は担架でリングを下ろされていた。意識は戻っているが、具志堅に撃ち抜かれた顎と、寿命を無理やり逆流させた肉体は、一歩も歩くことを許さない。
手首のウォッチには『マイナス六年』。残された時間は、もはや数年。ドヤ街の野良犬は、再び死の淵へと引き戻された。
入れ替わるようにリングへ上がったのは、力武・菊池ペアと、京都代表の中川・田代ペアだった。
京都組の足音は、一切聞こえなかった。纏う漆黒の装甲『千年の影』は、派手なエフェクトを完全に遮断する。
「……気色悪か連中ばい。死人のようなツラしおって」
力武が生身の拳をボキボキと鳴らしながら睨みつける。
「よかよ。死人なら、そのまま墓場に埋めてやるだけたい」
菊池が笑うが、その瞳にはこれまでにない警戒が宿っていた。
ゴングが鳴った。
力武が地を這うような突進を開始する。「死ねッ、古都の幽霊どもがァッ!!」
だが、中川は動かなかった。力武の巨拳が顔面を捉える寸前、中川は柳のように体を捻り、力武の腕の「内側」に指先を添えた。
「——六条の針」
打撃音はない。ただ、アーマーの隙間から、プシュリと小さな排熱音が漏れた。
「……が……あ……っ!?」
力武の動きが止まった。苦痛ではない。からくりアーマーの神経系そのものが、外部から「凍結」されたような硬直だった。
「お粗末。……暴力に理性が伴わぬのは、単なる獣の足掻きに過ぎません」
中川が扇を畳むような動作で、力武の鳩尾に掌底を打ち込む。「グハッ!!」。力武の巨体が、初めて無様に後退した。
相手の寿命エネルギーの「流れ」を読み取り、最小限の接触でその回路を遮断する。『マイナス五ヶ月……三週間……』。命の「結び目」を解いていくような剥奪だった。
「力武ェッ!!」
菊池が相棒の窮地に飛び込む。だがそこには田代が待ち構えていた。
「佐世保の喧嘩屋。……その熱、古都の闇で冷やして差し上げましょう」
田代の手から放たれたのは、からくりエネルギーを視覚化した無数の「糸」だった。
医務室のモニター越しに、拳士はその光景を凝視していた。
「……力武まで、圧倒されてやがる。なんなんだ、あの京都の連中は……」
「——針一本で内部から砕かれる、それだけのことじゃ」
背後で竹原が静かに言った。
リング上、力武の咆哮が響く。
「……ふざけんな。……長崎の命を、そんな綺麗な手つきで触るんじゃなかッ!!」
全身から、激しい熱気が噴き出した。




