表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『寿命の拳(からくり・ボクシング)』  作者: 水前寺鯉太郎
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/40

双位(ダブル)・カウンター

第24話:双位ダブル・カウンター


 【1】

 すべてが止まって見えた。

 拳士が放った右のクロスカウンター。それは具志堅の左を誘い、その外側から最短距離で顎を撃ち抜く、完璧な「罠」のはずだった。ドヤ街の路地裏で磨き、畑山の熱、竹原の魂を込めた、拳士の全存在を懸けた一撃。

 だが、具志堅の瞳には、驚きも動揺もなかった。

 (……なんだ。こいつの目、最初から俺の拳を『待って』やがったのか!?)

 【2】

 「——甘いな、広島。君の野生は、まだシステムの予測を越えていない」

 具志堅が呟くのと同時に、彼の左腕のアーマー『島風』が、聞いたこともないような高周波の駆動音を奏でた。

 具志堅は、拳士のカウンターが放たれる瞬間を「予見」していたのではない。拳士がカウンターを打たざるを得ない状況を自ら作り出し、その初動に、自らもクロスカウンターを合わせたのだ。

 カウンターに対する、カウンター。

 「双位ダブル・カウンター」

 二人の拳が、空中で残酷な交叉クロスを描く。

 【3】

 わずか、コンマ数ミリ。

 時間にして、零コンマ数秒。

 具志堅の左が、拳士の右よりも「早く」頂点に達した。

 「ガギィィィィン!!」

 金属が砕ける音と、肉が潰れる音が同時にアリーナに響き渡る。拳士の右拳が具志堅の頬を掠めるよりも早く、具志堅の左が、拳士の左顎に真正面から激突した。

 【4】

 衝撃波が脳を揺らし、視界が真っ白に染まる。

 『致命的損傷を検知。寿命、急速消失中——』

 ウォッチが、これまでで最も激しい悲鳴を上げた。

 『マイナス一年……二年……三年!!』

 一撃で、ベットした寿命のすべてが消し飛びかねないほどの、圧倒的な貫通力。拳士の身体は、糸の切れた人形のように宙を舞い、マットに叩きつけられた。

 「拳士ィィィィッ!!」

 セコンドの畑山がフェンスに身を乗り出し、喉を血に染めて絶叫する。

 【5】

 「……残念だよ。君の『一秒』は、俺の『零コンマ一秒』に届かなかった」

 具志堅は、熱を帯びた左腕を静かに下ろした。その動作には一分の乱れもなく、ウォッチの鼓動も変わらず一定のリズムを刻んでいる。

 マットに沈んだ拳士の意識は、暗い海の底へと沈んでいくようだった。

 (……届かなかった……? 俺の、すべてを乗せた一秒が……)

 左顎の感覚がない。折れているのかもしれない。立ち上がろうとする指先が、自分の意志を拒むように震えている。

 【6】

 「力武……見たか。あれが、具志堅の『左』たい」

 観客席の菊池が、息を呑んで呟いた。

 「……ああ。広島のガキが、一番信じとった武器を真っ向から叩き折られた。……残酷かばってん、あれが『格差』たい」

 力武は、目を細めて拳士を見つめていた。その瞳には、落胆と、そしてわずかながらの「憤り」が宿っていた。

 「立て、広島。……俺が叩き潰す前に、あんな綺麗か拳に屈して終わるな……っ!」

 審判のカウントが始まる。

 「ワン、ツー、スリー……」

 静まり返ったアリーナに、死への秒読みが非情に響き渡っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ