浪速の独演会(ステージ)
2100年11月15日。広島グリーンアリーナ。
場内の照明が落ち、ド派手なスポットライトがリング中央を射抜いた。重低音のダンスミュージックが響き、ヒョウ柄のガウンにマイクを片手にした大阪の亀田が入場してくる。
「まいど! 広島の皆さん、元気しとるかー! 今日はボクシングやなくて、俺の最高のライブを観に来たんやろ?」
大阪からの遠征組が地鳴りのような歓声を上げる。隣に立つ田上も不敵な笑みで手を振っていた。
「……気に食わねえ。ここは戦場だぞ」
コーナーで拳士が低く唸る。伊勢谷は冷めた目で亀田のウォッチを分析していた。
「小松原くん、見てごらん。彼のウォッチには『観客熱量連動』が入っている。観客が盛り上がるほど寿命燃焼効率が上がり、アーマーの出力が強化される。……あのパフォーマンスもすべては勝つための計算だよ」
ゴングが鳴った。
亀田の動きはダンスに近い。喋りながら、超高速の左ジャブを顔面に叩き込む。当たるたびに会場のボルテージが上がり、アーマーから立ち昇る蒸気がピンク色に輝きを増していく。
「ほらほら、どないしたんや広島! そんな怖い顔してたら、寿命が逃げていくで!」
「カチッ」と、ウォッチが『マイナス三日』を刻む。
(——あいつ、喋りながら俺の呼吸を乱してやがる)
観客の意識を自分に集中させ、相手の戦術を熱狂の中に埋没させてしまう。亀田のマイクパフォーマンスは、単なる目立ちたがりではなかった。拳士がクロスカウンターを狙おうとするたびに、亀田は派手なアクションでかわし、観客の歓声を引き起こす。その歓声がそのままエネルギーになり、亀田のスピードをさらに加速させてゆく。
「田上、行こか! サビの時間や!」
亀田の合図で、田上が重戦車のような突進を開始した。伊勢谷が手数で応戦しようとするが、亀田はその隙間を縫うようにアッパーを突き上げる。
「あかんあかん、そんなんじゃお客さん満足せぇへんで!」
一ラウンド終了のゴングが鳴った時、拳士と伊勢谷はこれまで経験したことのない種類の疲れに襲われていた。
「……竹原さん」
インターバル中、拳士はリング下の竹原を見た。
「商売人のボクシングよのう」と竹原が静かに言った。「あいつは自分の命を売って、それ以上の他人の熱を買っとる。……お前にはお前の燃やし方があるじゃろ」
それだけだった。
拳士は滲む汗を拭い、隣の伊勢谷を見た。
「……あいつのライブ、中止に追い込むぞ」
「同感だね。不愉快な音楽は、早めに消去するに限る」
二ラウンドのゴングが鳴る。亀田は軽快なリズムでステップを踏み、再びマイクを口元へ近づけた。
「さぁ、後半戦の始まりや! 小松原くん、君の『絶望の顔』、もっと近くで見せてや!」
「……歌わせてたまるかよ。お前の葬式に、最高の音楽を流してやるぜ」




