群雄、割拠す
2100年11月。
国庫庁主催タッグマッチ、二回戦に進出する八組の顔ぶれが発表されると、日本中の「寿命相場」が大きく変動した。
熊沢ジムの控室。肩に氷嚢を当てた拳士の前に、新聞を広げた熊沢が苦りきった顔で立っていた。
「沖縄からは野生の塊のような具志堅と我那覇。大阪からは死に物狂いのドブ板ボクシングの亀田と田上。京都の中川・田代は伝統を武器にする暗殺拳だ。秋田の藤堂とアンディは、マタギの猟師のような執念深さを持っとる」
「……それだけじゃないだろ」
拳士が新聞の一角を指差した。そこには、国庫庁が「現システムの最高到達点」と絶賛する二人の男が写っていた。
東京代表、堤と井上。
完璧なフォーム、完璧な戦術、圧倒的な寿命の保有量。他のボクサーのように「奪う」必要さえない。ただ「君たちの命は無駄だ」と証明するためだけにリングに上がる男たちだった。
「東京の連中は、俺たちみたいな人間をただの『ノイズ』だと思ってる」
伊勢谷が、サプリメントを口に運びながら冷たく言った。「彼らのボクシングは、一秒の無駄もない。……小松原くん、君の『一秒を燃やす』スタイルは、彼らにとってはただの汚らしい不備でしかないんだよ」
その時、ジムの扉が乱暴に蹴り開けられた。
「おぉ、ここが広島の『死に損ない』の巣窟かばい?」
力武と菊池だった。力武は拳士の包帯だらけの肩を一瞥すると、不敵に笑って煙草を取り出した。
「二回戦の相手が決まったばい。俺たちは秋田の藤堂ペア。……拳士、貴様らは大阪の亀田ペアたい。あいつらは、あんた以上の生き汚さば持っとるぞ」
「……わざわざ教えに来てくれたのか、長崎」
「勘違いするな。貴様が俺たちの『ステゴロ』に沈む前に、どこの馬の骨とも分からん大阪の連中に端数の寿命を毟られるのが癪なだけたい」
力武の背後で、菊池が伊勢谷を冷たい眼で見ていた。
「ええか、拳士」
隅で影のように立っていた竹原が、静かに口を開いた。「大阪の亀田はのう、『パフォーマンスの天才』じゃ。観客の熱を味方につけて、判定すらも寿命に変える。……『一秒を燃やす』お前に対し、あいつらは『一秒を売る』プロじゃ。呑まれるなよ」
拳士は砕けた左肩の痛みを噛みしめながら、立ち上がった。
「……どこの誰が来ようが、俺の拳は変わらねえ」
二回戦、広島・小松原拳士&伊勢谷ペア、対、大阪・亀田&田上ペア。2100年11月15日。




