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『寿命の拳(からくり・ボクシング)』  作者: 水前寺鯉太郎
第一章

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群雄、割拠す

第16話:群雄、割拠す


 【1】

 2100年11月。

 国庫庁主催タッグマッチ、二回戦に進出する八組の顔ぶれが発表されると、日本中の「寿命相場」が大きく変動した。

 一回戦を突破した小松原拳士と伊勢谷。そして、マサトらを残虐に解体した長崎の力武と菊池。しかし、残りの六組もまた、それぞれの地方を支配する「バグ」のような怪物たちだった。

 「……えらいことになったのう、拳士」

 熊沢ジムの控室。肩に氷嚢を当てた拳士の前に、新聞を広げた熊沢が苦りきった顔で立っていた。

 「沖縄からは、野生の塊のような具志堅と我那覇。大阪からは、死に物狂いのドブ板ボクシングを貫く亀田と田上。京都の中川・田代は『伝統』を武器にする暗殺拳だ。秋田の藤堂とアンディは、マタギの猟師のような執念深さを持っとる」

 【2】

 「……それだけじゃないだろ」

 拳士が、鋭い視線で新聞の一角を指差した。

 そこには、国庫庁が「現システムの最高到達点」と絶賛する二人の男が写っていた。

 東京代表、堤と井上。

 完璧なフォーム、完璧な戦術、そして他を圧倒する寿命の保有量。彼らは他のボクサーのように「奪う」必要さえない。ただ「君たちの命は無駄だ」と証明するためだけにリングに上がる、文字通りの『怪物モンスター』だった。

 「東京の連中は、俺たちみたいなドヤ街の人間を、ただの『ノイズ』だと思ってる」

 伊勢谷が、最新のサプリメントを口に運びながら冷たく言った。

 「彼らのボクシングは、一秒の無駄もない。……小松原くん、君の『一秒を燃やす』スタイルは、彼らにとってはただの汚らしい不備でしかないんだよ」

 【3】

 その時、ジムの扉が乱暴に蹴り開けられた。

 「おぉ、ここが広島の『死に損ない』の巣窟かばい?」

 現れたのは、力武と菊池だった。

 力武は、拳士の包帯だらけの肩を一瞥すると、不敵に笑って懐から一本の煙草を取り出した。

 「二回戦の相手は、秋田の藤堂ペアに決まったばい。……拳士、貴様らは大阪の亀田ペアたい。あいつらは、あんた以上の生き汚さば持っとるぞ」

 「……わざわざ教えに来てくれたのか、長崎」

 「勘違いするな。貴様が俺たちの『ステゴロ』に沈む前に、どこの馬の骨とも分からん大阪の連中に、その端数のような寿命を毟り取られるのが癪なだけたい」

 力武の背後で、菊池が冷たい火花を散らすような瞳で伊勢谷を睨んでいる。

 広島と長崎。反目し合いながらも、彼らの間には「システム側に屈しない」という奇妙な共犯意識が芽生え始めていた。

 【4】

 「ええか、拳士。大阪の亀田はのう……『パフォーマンスの天才』じゃ」

 竹原が、隅で影のように立ち上がり、静かに言った。

 「あいつらは観客の熱を味方につけて、判定すらも寿命に変える。……『一秒を燃やす』お前に対し、あいつらは『一秒を売る』プロじゃ。呑まれるなよ」

 拳士は、砕けた左肩の痛みを噛みしめながら、立ち上がった。

 東京の王道、長崎の暴力、大阪の執念、沖縄の自然……。

 もはやこれは、単なるタッグマッチではない。

 誰の「命の形」が、この歪んだ世界で生き残るにふさわしいかを決める、血塗られた生存競争だ。

 【5】

 「……面白くなってきやがった。どこの誰が来ようが、俺のカウンターは変わらねえ」

 拳士が、鏡に映る自分の顔を睨みつける。

 そこには、ドヤ街で死にかけていた頃にはなかった、飢えた狼のような光が宿っていた。

 二回戦、広島・小松原拳士&伊勢谷ペア、対、大阪・亀田&田上ペア。

 2100年11月15日。

 再び広島の地に、命を賭けたゴングが鳴り響こうとしていた。

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