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『寿命の拳(からくり・ボクシング)』  作者: 水前寺鯉太郎
第一章

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15/40

喧嘩の流儀

第15話:喧嘩の流儀


 【1】

 国庫庁主催タッグマッチ、一回戦の第二カード。

 青コーナーに現れた二人の男を見て、会場は再び沸き立った。

 一人は、洗練された銀色のアーマーを纏い、端正な顔立ちに不敵な笑みを浮かべるマサト。もう一人は、小柄ながらも全身から爆発的な殺気を放つ、タトゥーだらけのアーマーを纏った山本のりふみ。

 「美しいな。……でも、ここは僕たちの独壇場だよ」

 マサトが華麗なシャドーを披露すると、会場の女性ファンから悲鳴に近い歓声が上がる。彼らは国庫庁が「格闘技の黄金時代」を再現するために作り出した、最高傑作の特異点ボクサーだった。

 対する赤コーナー、長崎・佐世保の力武と菊池。

 彼らは歓声に応えることもなく、ただ汚れたタオルを肩にかけ、無機質な鉄のような瞳で相手を見据えていた。

 「力武、ありゃあ見世物ばい。……俺たちの街なら、一秒で刺されるツラしとる」

 菊池が低く吐き捨て、地面に唾を吐いた。

 【2】

 ゴングが鳴った瞬間、リングを支配したのはマサトと山本の圧倒的な「華」だった。

 マサトの超高速のローキック(からくりによる衝撃波)が菊池の脚を叩き、山本の爆発的なタックルからの右フックが力武のガードを跳ね上げる。

 「どうした、長崎! 造船所の鉄板より、僕たちの拳の方が硬いようだよ!」

 マサトの華麗な連打が菊池を追い詰める。山本の野生的なラッシュが、力武のウォッチを『マイナス一ヶ月』ずつ正確に削り取っていく。会場は「神の子」と「銀狼」のワンサイドゲームに酔いしれていた。

 だが、竹原だけはリングサイドで不気味に笑っていた。

 「……見ろ、拳士。あいつら、まだ『ボクシング』をしとらんぞ」

 拳士は肩を冷やしながら、その言葉の意味を理解した。力武も菊池も、急所を打たれているにもかかわらず、その表情には焦りも苦悶もなかった。あるのは、ただ「獲物を観察する」冷徹な静寂だけだった。

 【3】

 「——飽きたばい。……菊池、そろそろよかか」

 山本の猛攻を受けながら、力武が重い口を開いた。

 その瞬間、リングの空気が凍りついた。

 力武は山本の必殺の右を、避けるのではなく「左手で握りつぶした」。からくりの出力を無視した、生身の握力。ボーン、という鈍い音が響き、山本のアーマーに亀裂が入る。

 「ボクシングは綺麗じゃでも……喧嘩ステゴロは、こうやるたい」

 力武の右拳が、山本の顔面ではなく「喉元」を正確に突き刺した。

 ボクシングの反則。だが、国庫庁のルールさえも、彼らの佐世保仕込みの暴力の前では無力だった。山本のウォッチが異常を検知し、警報を鳴らす。

 【4】

 一方の菊池も、マサトの華麗なステップを「足を踏みつける」という原始的な方法で封じた。

 「お洒落な靴ば履いとるね。ばってん、動けんとばつまらんばい」

 動きを止められたマサトの顎を、菊池は下から抉るような肘打ち(エルボー)で跳ね上げた。

 「ぐ……っ、きさま、これはボクシングじゃ……!」

 「知らん。俺たちは、相手の息が止まるまで叩くだけたい」

 そこから始まったのは、試合ではなく「解体」だった。

 力武のパンチは、一点を撃ち抜くのではなく、相手の肉体そのものを粉砕する質量を持っていた。山本のウォッチから寿命が溢れ出し、リングが青白い血のような光で染まる。

 【5】

 「カァァァン!」

 二ラウンド終了。

 リング上に立っていたのは、返り血を浴びたように赤く染まった、力武と菊池だった。

 マサトと山本は、もはや「伝説」の面影もなく、ズタズタになったアーマーと共にキャンバスに這いつくばっている。

 力武は、観客席で肩を負傷したまま見つめる拳士に、視線を向けた。

 「……広島のガキ。見たか。これが俺たちの『ステゴロ』ばい」

 力武のウォッチが、奪い取った寿命を飲み込み、不気味な黒光りを放つ。

 『寿命移譲を完了しました。 +12年』

 小松原拳士は、その圧倒的な暴力の前に、戦慄を隠せなかった。

 アリのようなシステムでも、マサトのような技術でもない。

 ただひたすらに、相手を「壊す」ためだけに磨かれた、最底辺の喧嘩。

 「倍賭け」の準決勝。拳士たちの前に立ちはだかるのは、人間の形をした「鉄の塊」だった。

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