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『寿命の拳(からくり・ボクシング)』  作者: 水前寺鯉太郎
第一章

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13/51

リミッター解除と喧嘩の血

「警告。アーマー出力、物理限界を突破。寿命燃焼レート、通常の三倍——」

 無機質な電子音声と同時に、モハメド・アリの全身から青白い炎が噴き出した。

 機械の眼光が黄金色に変わる。国庫庁が封印していた「オーバークロック」の解禁。残された数十年分の寿命を、わずか数分間で全て火力に変換する、自爆同然の最終手段だった。

 「小松原くん、下がれ! 触れれば寿命ごと焼き切られるぞ!」

 伊勢谷が叫んで後退する。だがアリのステップはすでに「舞い」を超えていた。残像を置き去りにする速度で懐に潜り込み、放たれたジャブの衝撃波がリングの床に深い溝を刻む。

 (速ぇ……!)

 拳士は防戦一方に追い込まれた。避けても、避けても、熱波が皮膚を焼き、ウォッチの数字がこぼれ落ちてゆく。アリはもはや言葉を発しない。最適化された動作を、ただ繰り返す。

 観客席で力武が、その光景を静かに見つめていた。

 「からくりがなんぼのもんや。出力上げたところで、しょせんは機械。……あんな綺麗か戦い、俺たちの街じゃあ通用せんばい」

 分厚い拳を握りしめる。甲には、古びた傷跡が無数に走っていた。

 力武と菊池はかつて、佐世保の港で「札付きの悪」としてその名を轟かせていた。錆びついたクレーンの下、潮風の吹く路地。そこでの喧嘩にルールはなかった。相手を沈めるためなら鉄パイプでもレンガでも使い、指を折られても噛みつき、泥水をすすりながら喉笛を狙った。

 「ボクシングば覚えたのは、相手を効率よく壊すためたい」と菊池が低く笑った。「ばってん、根っこにあるのは喧嘩ばい。綺麗なフォームも、派手なエフェクトも要らん。必要なのは、相手より先に『死ねる』度胸だけたい」

 「カァァァン!」

 二ラウンド終了間際、拳士はアリの連打をあえてその身で受けた。

 左肩の骨が砕ける音がし、ウォッチが「マイナス一年」を宣告する。だが、その痛みをそのままガソリンに変えて、拳士の右肘がアリの側頭部を叩いた。

 「お前の『伝説』、俺がここで終わらせてやるよ……!」

 拳士の野性の瞳が、アリの黄金の機械眼を射抜く。

 「力武、行くばい。あいつら、もうすぐ決着のつく」

 観客席で菊池が席を立った。

 「ああ。アリが沈んだら、次は俺たちがその広島のガキを、佐世保の海に沈めてやる番たい」

 力武の背中に、凶々しい殺気が宿った。

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