18:夏の夜の潮風テラスと「呉風の冷やしうどん&アイス」 18【前編】
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よろしくお願いします
第2部の幕開けです。【ローマ編】
新生ダビングもよろしくお願いします
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
これからもよろしくお願いします。
18:夏の夜の潮風テラスと「呉風の冷やしうどん&アイス」
18【前編】:夏の疲れを吹っ飛ばせ! 潮風テラス計画
【AM 10:00 | 港町ポルトー・冒険者ギルド「潮風の錨亭」1階ホール】
八月上旬の太陽は、午前十時という時間帯にして早くも容赦ない熱線をポルトーの街へと降り注いでいた。 港から吹き込む風すらも温風のようで、潮の香りと共に湿った熱気をギルドのホール内へと運んでくる。
「ひぃぃ〜〜……あつぅ……。今日の暑さは、本格的に堪えるねぇ……」
ひよりはギルドの丸テーブルに突っ伏し、作業着の袖をまくり上げて呉弁で伸びていた。 腰の『おみくじ箱』も、暑さのせいか「カチ……カチ……」とどこか気怠げな音を立てている。
『ひより様、本日も外気温三十五度を突破。連日の猛暑により、ギルドホール内の冒険者各位の生存意欲、著しく低下中であります』 竹定規の付喪神・竹千代が、カチリと目盛りを光らせて客観的な数値を弾き出した。
竹千代の言う通り、普段なら豪快な歓声と杯を交わす音で溢れ返っているギルドのホール内は、まるでお化け屋敷のように重苦しい静寂に包まれていた。
「うぐぅ……あかん……何も喉を通らん……」 いつもなら大盛りの肉料理を平らげている関西弁の盗賊トニが、テーブルの上に突っ伏して白い目を剥いている。
「俺もだばい……。連日の暑さで胃袋がすっかり参ってしまって、重い煮込み料理や肉を見るだけで胸が焼けるようだばい……」 津軽弁の魔法使いガルバも、自慢の杖を抱えたまま椅子から落ちそうな格好でへたり込んでいた。
さらに、九州弁の巨漢斧使いレンに至っては、氷を入れたバケツに顔を突っ込まんばかりの勢いで「水……冷たいお水をくれたい……」と弱々しい声を漏らしている。
連日続く過酷な猛暑と高い湿気。その疲れが蓄積し、強者揃いの冒険者たちの食欲と体力を根こそぎ奪い去っていたのだ。
「みんな、ぶちグッタリしとるねぇ……」
ひよりが呉弁で心配そうに見渡していると、ギルドの木製扉が静かに開き、ミミが車椅子を押しながら入ってきた。 車椅子の上に座っているのは、5歳の妹ナナだ。
「ひよりお姉ちゃん、みんな……おはようやき……」
ミミが大きな猫耳をパタリと寝かせ、少し心配そうな顔で声をかけてきた。 車椅子のナナも、ひよりから貰ったコバルトブルーのリボンを髪に結び、小さな手で膝の上のブランケットを握りしめている。
「ミミちゃん、ナナちゃん、おはよう。ナナちゃん、朝のご飯はちゃんと食べられたかいね?」
ひよりが優しくかがみ込んで尋ねると、ナナは申し訳なさそうに小さく首を横に振った。
「……うん……。お薬は飲んだのやき……でも……暑くてお腹が……あんまり空かないやき……」
「そうなんよね……。ナナちゃんも食欲落ちちゃったかいねぁ」
東の国からの長旅とポルトーでの継続的な治療により、順調に回復の兆しを見せていたナナだったが、流石にこの連日の猛暑には胃腸が疲れ始めていたのだ。
ミミがギュッと小さな拳を握りしめた。
「ひよりお姉ちゃん! あたい、ナナやみんながこのままグッタリしちゅうのを見るのは嫌やき! 何か冷たくて、ツルッとお腹に入って、元気になるおいしいご馳走を作れないがやき!?」
ミミの真っ直ぐな言葉に、ひよりの胸が熱くなった。
「ほうじゃね……! みんなが暑さで倒れちゃったら大変じゃし、何よりナナちゃんが美味しく食べられるものを作ってあげたいねぇ!」
ひよりは腕を組み、呉の家族や街の人たちが真夏に食べていた美味しい料理を頭の中で巡らせた。
「……冷たくて、喉越しが良くて、お腹に優しくて、お出汁の旨味が効いとるもの……。あ! ほうじゃ!」
ひよりがポンと手を叩いた。
「冷たいお出汁で食べる『呉の細うどん』と、食後に冷たくて甘い『アイスクリン』じゃよ!」
「冷やしうどん……と、アイスクリンやき!?」 ミミの琥珀色の瞳がパッと輝いた。
「ほうよ! 呉の細うどんは麺が細くて柔らかいけぇ、食欲がなくてもスルスルッとお腹に入るんよ! それに、ギルドの2階にある『潮風テラス』なら、夜になると海からの冷たい風が吹いてぶち気持ちええんよ!」
「潮風テラス……! 満天の星空と海風を感じながら食べる冷たいご馳走……最高やきーッ!」
「カッカッカ! ひより様、実に見事な構想でございますぞ!」 大童の姿となった木製しゃもじの付喪神・飯蔵が、大鍋を抱えて豪快に笑った。
「真夏の過酷な暑さを吹き飛ばすのは、冷たきお出汁と職人の知恵! 今夜、ギルドの潮風テラスにて『真夏の特製夜食テラス』を限定オープンいたしましょうぞ!」
「やったぁぁぁっ! 決まりじゃね! よーし、ミミちゃん、ナナちゃん、みんなで仕込みを始めるよーっ!」
「「おおーっ!!」」
こうして、冒険者たちの夏の疲労を吹っ飛ばす「真夏の潮風テラス計画」が、威勢よくスタートしたのだった。
【PM 02:00 | ギルド厨房・にぎやかな仕込みの時間】
ギルドの1階奥にある大きな厨房。 窓からは夏の強烈な日差しが差し込んでいるが、厨房内は洗三が汲んできた冷たい湧き水のおかげで、ひんやりとした清々しい空気が漂っていた。
「よーし! それじゃあ仕込み開始じゃ!」
ひよりは、自分の作業着とお揃いの小さな「特製エプロン」を取り出した。ひとつはミミ用、そしてもうひとつは車椅子のナナ用の小さな小さな桃色のエプロンだ。
「わぁぁぁ! ナナのエプロンもあるやき!」 ミミが大きな猫耳をピンと立てて大はしゃぎする。
ひよりがナナの胸元に桃色のエプロンを優しくかけて、後ろでリボンを結んであげた。
「ナナちゃん、ぶち似合っとるよ! 今日はナナちゃんも、立派な『ちいさな料理人さん』じゃね!」
「……うん……! ナナ……ちいさな料理人さん……がんばるやき……!」
ナナは可愛らしく小さな胸を張り、桃色のエプロンの裾をキュッと握りしめた。コバルトブルーのリボンと桃色のエプロンが合わさり、まるで小さな妖精のような愛くるしさだ。
「よし! 最初はうどんのお出汁作りじゃ!」
ひよりが厨房の調理台の上に並べたのは、瀬戸内産の煮干し(いりこ)、乾燥昆布、そして薄口醤油とみりんだ。
「呉のお出汁の基本は、なんと言っても『いりこ(煮干し)』じゃけぇね! いりこの頭と内臓を丁寧にとると、雑味のない綺麗なお出汁が取れるんよ」
ひよりが手本を見せると、ミミとナナが真剣な表情で並んだ。
「いりこの頭をとるがやきね……こうやき?」 ミミが手際よくいりこの頭をプチッと外していく。
車椅子のナナも、小さな手指で丁寧にいりこを持ち、真剣な眼差しで頭を取り除いていく。
「……頭ぽん……内臓ぽん……できたやき……」
「まあぁぁぁ! ナナちゃん、ぶち手先が器用じゃねぇ! 綺麗な手仕事じゃわぁ!」
ひよりが呉弁で大絶賛すると、ナナは「あは……できたやき……」と誇らしげに頬を赤らめた。
「カッカッカ! では、このいりこと昆布を、一晩冷たい湧き水に浸してじっくりと旨味を抽出し、薄口醤油で黄金色に仕上げますぞ!」
飯蔵が大鍋にお水といりこを投入し、旨味あふれるお出汁の仕込みを進めていく。
【PM 04:00 | 麺の仕込みと、食後の『アイスクリン』作り】
続いて取りかかったのは、呉の名物『細うどん』の麺の準備だ。
一般的な讃岐うどんのような太く硬いコシのある麺とは違い、呉の細うどんは通常よりもずっと細く、茹で上がりが柔らかく、出汁をたっぷりと吸い上げるのが特徴だ。
「ミミちゃん、ナナちゃん、うどんは茹でた後に、この『洗三の超冷水』でキュッと締めるんよ! これで喉越しがツルツルになるんよ」
「ツルツルやきね! あたい、氷水で洗うの得意やき!」 ミミが袖をまくり上げて張り切る。
そして、今回の夜食テラスの目玉とも言えるデザート——『呉風アイスクリン』の仕込みに入った。
「アイスクリン……!? ひよりお姉ちゃん、それってお口の中で冷たく溶ける甘いオヤツのことやき!?」
「ほうよ! 呉の街角で昔から売っとるアイスクリンはね、生クリームをたっぷり使う洋風のアイスクリームとは違って、卵と砂糖と牛乳で作る、さっぱりとしたシャリシャリのアイスなんよ!」
ひよりがボウルの中に新鮮な卵黄、砂糖、そして牛乳を投入し、泡立て器でシャカシャカと混ぜ合わせた。
「ほら、ミミちゃん、ナナちゃんも混ぜてみてぇね!」
「あたいに任せるやきーッ!」 ミミが泡立て器を握り、勢いよくボウルの中をかき混ぜる。
車椅子のナナも、ひよりに手を添えてもらって「ぐるぐる……ぐるぐる……」と小さく泡立て器を動かした。
「……あたたかい黄色……きれいなお色やき……」
「そうじゃねぇ、綺麗な黄色じゃね。これをね、冷たい氷と塩の力で一気に冷やしながら混ぜていくと……シャリッとした懐かしいアイスクリンになるんよ!」
ここで大活躍したのが、昭和レトロなトタン湯たんぽの付喪神・『ぬくもり』だった。
普段は温かな熱を放つぬくもりだが、その頑丈なトタンボディの外側に「氷と塩」をたっぷりと敷き詰め、金属の熱伝導率を利用してボウルの底を急速に冷却する「急速冷却台」として一肌脱いだのだ!
『ぬくもり殿のトタンボディ、急速冷却効果抜群! ボウル内の温度、マイナス三度に到達!』 竹定規の竹千代がシャキーンと目盛りを光らせて実況する。
「おぉぉぉっ! 縁のところが固まってきたやき!」
ボウルのフチから、シャリシャリとした繊細な氷の結晶が生まれ、優しい黄色の氷菓へと変貌していく。
「ナナちゃん、ちょっと味見してみるかいね?」
ひよりが小さなスプーンで、出来立てのシャリシャリのアイスクリンをすくい、ナナの口元へ運んだ。
ナナは小さな口をあけて、パクリとスプーンを咥えた。
モグモグ……。
次の瞬間、ナナの大きな瞳がパッと見開かれた!
「……つめたくて……甘くて……たまごの優しいお味がするやき……! シャリシャリして……すごく美味しいやき……!」
「ほんとう!? あたいも食べるやき!」 ミミもスプーンで一口頬張り、「う〜〜ん! 美味しいやき! さっぱりしとるから、幾らでも食べられそうやきーっ!」と大絶賛した。
ひよりもうれしそうに呉弁で微笑み、「ふふっ、これで今夜の仕込みは完璧じゃね!」と二人とハイタッチを交わしたのだった。
【PM 06:00 | 潮風テラスの設営と、夕暮れの訪れ】
仕込みを終えたひよりたちは、ギルドの2階にある「潮風テラス」へと移動した。
潮風テラスは、港を一望できる広い木造のバルコニーだ。 昼間の強烈な太陽が西の海へ傾き始めると、海から吹く風が一気に冷たさを帯び、テラス全体を吹き抜けていく。
「ふぁぁ〜〜……! ぶち気持ちええ風が吹いてくるねぁ!」
ひよりが呉弁で髪をなびかせながら深呼吸する。
「チョキチョキ! 糸吉の『清涼提灯ランタン』吊り下げ完了チョキ!」
裁縫用糸切りバサミの糸吉が空を舞い、テラスの周囲に涼しげな青と白の和紙提灯を吊るしていく。
天球儀のステラもフワフワと舞い上がり、夕闇が迫る空へ向けて、キラキラと輝く星の光を先取りするように放った。
「よし! テーブルも椅子も準備完了やき!」
エプロン姿のミミと、車椅子のナナが並び、テラスの入口で誇らしげに胸を張る。
下の方から、重い足音と疲れた声が響いてきた。
「はぁ〜……今日も一日、暑さで死にそうだっただばい……」 「何も食べたくないばってん、冷たいお水でも飲みにいくたい……」
グッタリとした表情でギルドの階段を上がってきたのは、津軽弁のガルバ、九州弁のレン、そして関西弁のトニたち冒険者グループだった。
ひよりとミミ、そして桃色エプロンのナナが、満面の笑顔で彼らを出迎えた。
「みんな! いらっしゃい! 今夜はギルドの2階テラスで『真夏の特製夜食テラス』オープンじゃよ!」
「「「特製夜食テラス……!?!?」」」
冒険者たちが目を見開いた。
涼やかな海風が吹き抜けるテラス席、幻想的に灯る青い提灯の光、そして厨房から漂ってくる、あまりにも芳醇で冷たそうなお出汁の香ばしい匂い——。
食欲を失っていた冒険者たちの鼻腔が、一瞬でその極上の匂いに捉えられたのだった!
「さあ! 暑さで疲れたお腹を冷やす、最高のご馳走を召し上がれ〜〜っ!」
ひよりの呉弁の呼びかけとともに、冒険者たちの疲労を吹っ飛ばす「真夏の潮風テラス宴会」が、いよいよ幕を開けようとしていた。
( 18【後編】へ続く)
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