17:ミミの初めてのお使いと、不思議な「真夏の迷子貝」 【後編】:陰からのサポートと、ほんとうの姉妹
本日の呉料理:『呉風・鯛めし(出汁炊き込みご飯)』
瀬戸内の新鮮な鯛を丸ごと香ばしく焼き上げ、お出汁でふっくら炊き上げた上品なご飯。頑張ったミミとナナへのお祝い飯。
17:ミミの初めてのお使いと、不思議な「真夏の迷子貝」
【後編】:陰からのサポートと、ほんとうの姉妹
【AM 11:45 | 南海岸・サンゴ浅瀬】
「〜〜〜〜♪♪♪ 沖へ〜〜♪ 帰りたぁぁぁい〜〜〜〜ッ!!♪♪♪」
真夏の太陽が直射する南海岸の浅瀬に、まるで雷鳴のようなソプラノの大歌声が轟き渡っていた。 虹色に輝く巨大な二枚貝——『歌う迷子貝』は、パカパカと勢いよく貝殻を開閉させながら、そのつぶらな瞳をうるうるさせ、大音量の音波とともに「ブシャァァァッ!」と勢いよく潮を吹き出し続けている。
「ふにゃあぁぁぁっ! 冷たいやき! 潮水で目が開かんにゃ〜〜っ!」
全身びしょ濡れになったミミは、足をとられて尻もちをつき、浅瀬の水しぶきの中で翻弄されていた。抱えようとしても、迷子貝が音波の振動で暴れるため、つるりと滑って手が出せないのだ。
そこへ——
「ミミちゃ〜〜〜〜んっ!!」
「にゃっ!?」
水しぶきを豪快にはね上げながら、頭に麦わら帽子を被り、サングラスを額に押し上げたひよりが飛び込んできた! その後ろからは、朱色の袴の紅緒、バケツの洗三、天球儀のステラ、そして付喪神たちが一斉に駆け寄ってくる。
「ひ……ひよりお姉ちゃん!? なんでここに居るがやき!?」
「説明は後じゃ! まずはこの貝ちゃんを落ち着かせようかいね! ステラ! お願いつかぁさい!」
『はい、ひより様! 迷子貝さん、落ち着いてくださいな!』
手のひらサイズの天球儀のステラが宙へ舞い上がり、くるくると旋回しながら、優しく光る「星くずの子守唄の光」を迷子貝の頭上に降り注いだ。
さらに、三つ仕切りバケツの洗三が「冷たくて綺麗な湧き水だよ〜!」と、塩分の抜けた清らかな水を迷子貝の口元へそっと注ぎ込む。
すると、大音量で歌い狂っていた迷子貝の動きがピタリと止まった。
「〜〜♪ ララ……ぽや……? 湧き水……おいしい……♪」
ステラの放つ星光の温もりに包まれ、洗三の冷たい湧き水をゴクゴクと飲み干した迷子貝は、興奮がすっかり冷めたように「ぽやぁ〜ん」と瞳を細め、吹き出していた潮をピタリと止めたのだ。
「ふぅ……静かになったわぁ……」
ひよりが膝をついて胸を撫で下ろすと、水浸しのミミが目を丸くして、ひよりと付喪神たちを交互に見つめた。
「ひよりお姉ちゃん……さっきの怪しい黒布の人たち……やっぱりひよりお姉ちゃんたちだったがやき?」
「あうっ……! バレとったんかいね……?」
ひよりが呉弁で苦笑いしながら頭を掻くと、神刀の紅緒が静かに前へ進み出て、朱色の袴の裾を気にしながら頭を下げた。
「ミミ殿、申し訳ありません。ひより様も私どもも、ミミ殿の『一人でやり遂げたい』というお気持ちを尊重したかったのです。ですが……やはり心配でたまらず、影から見守らせていただいておりました」
「一人でがんばっとるミミちゃんを邪魔したくはなかったんじゃけど……ごめんね、ミミちゃん」
ひよりが申し訳なさそうに眉を下げると、ミミは数秒間ぽかんとしていたが、やがてその琥珀色の瞳からボロボロと大きな涙が溢れ出した。
「うにゃぁぁぁぁぁんっ! ごめんじゃないやきーっ! ぶち嬉しかったがやきーっ!」
ミミは勢いよくひよりの胸に飛び込み、しがみついて泣きじゃくった。
「あたい……本当は途中でぶち不安で、寂しかったがやき……! ひよりお姉ちゃんたちが近くで見守ってくれてたって分かったら、安心して涙が出てきたがやきーっ!」
ひよりは優しく微笑み、呉弁でミミの濡れた頭をポンポンと撫でて抱きしめた。
「ミミちゃんはぶち頑張ったよ。短剣の手入れもバッチリじゃったし、真珠貝も一人で九つも集めたんじゃけぇね。すごいよ、ミミちゃん」
「ひよりお姉ちゃん……っ!」
二人の絆を確かめ合う姿に、裁縫用糸切りバサミの糸吉も「チョキチョキ! ええ姉妹チョキ!」と涙を流してハサミを鳴らし、トタン湯たんぽの『ぬくもり』も「ぬくぬくの熱でミミ殿の冷えた身体を温めますぞ!」とポカポカの熱を放った。
「ぽや〜♪」
大人しくなった『歌う迷子貝』が、ひよりたちの温かな空気に安心したように、ミミのバケツの中へ自分から「ポコン」と納まった。
「あ、迷子貝ちゃん、おとなしくなったねぇ!」
「うん! ギルドに連れていって、お沖の深い海へ帰してもらうようお願いするやき!」
ミミは手ぬぐいで涙を拭うと、最後の十個目の薬用・真珠貝をしっかりと拾い上げ、見事にFランク依頼の目標を達成したのだった。
【PM 02:00 | ギルドでの報告と、小さなプレゼント】
ギルド「潮風の錨亭」の受領窓口。
「ほう! 薬用・真珠貝十個、確かに受け取ったぞ! 状態も完璧だ!」
ギルドの受付のお姉さんが、ミミの差し出したバケツを確認してニッコリと微笑んだ。さらに、バケツの中で大人しく収まっている『歌う迷子貝』を見て目を丸くした。
「あらまぁ! これは珍しい『歌う迷子貝』じゃない! 沖の調査船に頼んで、安全な深海へ帰してあげるわね。特別な発見手当として、報酬に銀貨一枚色をつけておくわ!」
「ほんとうやき!? やったぁぁぁぁっ!」
ミミが受け取ったのは、依頼報酬の銀貨二枚と、発見手当の銀貨一枚——合計「銀貨三枚」だ。 初めて自分の力だけで手に入れた、ズシリと重い価値ある銀貨。
「ひよりお姉ちゃん! できたがやき! あたい、一人で依頼をやり遂げたがやき!」
「うん! ぶち偉かったねぇ、ミミちゃん!」
ひよりが呉弁で大絶賛すると、ミミは銀貨三枚のうち二枚を大切に布に包み、残る一枚の銀貨をギュッと握りしめた。
「二枚はナナの医療ギルドへのお薬代にするがやき。そして……この一枚で、ナナにプレゼントを買いたいがやき!」
「まあ! プレゼントかいね!?」
「うん! 毎日苦いお薬を頑張って飲んちゅうナナに、あたいが自分の稼いだお金で、何か可愛いものを買ってあげたいがあやき!」
二人は早速、職人街のお裁縫手芸屋へと向かった。
職人街の賑やかな店先には、カラフルな生地や可愛いリボンがズラリと並んでいる。 ミミは真剣な眼差しで店内を見渡し、小さな小さな絹織物のリボンに目を留めた。それは、真夏の空のように鮮やかな「綺麗な薄青色」のリボンだった。
「これやき……! ナナのくりくりした瞳と同じ色のリボンやき!」
ミミは自分の手で銀貨を差し出し、薄青色のリボンを大切に小箱に入れてもらった。
「ひよりお姉ちゃん、早く宿屋に帰って、ナナに見せてあげるがやき!」
「ほうじゃね! ナナちゃん、ぶち喜ぶわぁ!」
二人は手を繋ぎ、夕暮れの近づくポルトーの街を元気に駆け抜けていったのだった。
【PM 05:30 | 宿屋「海猫亭」・ミミからのプレゼント】
「ナナ〜〜〜〜っ! ただいまやきーッ!」
宿屋の部屋の扉をミミが勢いよく開けると、ベッドの上の車椅子で本を読んでいた5歳の妹ナナが、パッと小さな猫耳を立たせた。
「ミミおねえちゃん……! おかえりなさい……やき……!」
ミミは汗だくのままナナの車椅子の前へ駆け寄り、誇らしげに小さな小箱を差し出した。
「ナナ! これ、あたいが今日冒険者のお仕事をして、自分の力で稼いだお金で買ったプレゼントやき! 開けてみてほしいがやき!」
「……ミミおねえちゃんの……プレゼント……やき?」
ナナは小さな手で丁寧に小箱のフタを開けた。 中から現れたのは、ツヤツヤと輝く綺麗なコバルトブルーの絹のリボンだ。
「わぁ……っ……きれい……っ!」
ナナの大きな瞳がパッと輝いた。
「ナナの目と同じ色のリボンやき! 毎日お薬を頑張っとるナナに、あたいからのご褒美やき!」
ミミが優しく手伝ってあげて、ナナの栗色の髪の横に薄青色のリボンを結びつけてあげた。
「どうやき、ひよりお姉ちゃん!?」
「まあぁぁぁ! ぶち似合っとるよ! ナナちゃん、ぶち可愛ええわぁ!」
ひよりが呉弁で歓声を上げると、ナナは鏡に映った自分の姿を見つめ、小さな手を頬に当てて、今日一番の輝かしい笑顔を咲かせた。
「……ミミおねえちゃん……ありがと……っ! ナナ……ぶち……ぶち嬉しいやき……!」
ナナはミミの首に小さな手でぎゅっと抱きつき、ミミも「ナナ〜〜っ!」と大涙を流して抱き返した。
二人の姿を見つめながら、ひよりの目からも温かな涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「よかったねぇ……ミミちゃん、ナナちゃん……ほんまにほんまに、ええ姉妹じゃねぇ……」
神刀の紅緒やステラ、ぬくもり、そして付喪神たちも、静かに二人の温かな絆を温かく見守っていたのだった。
【PM 07:00 | 頑張った二人へのお祝い飯・飯蔵特製『鯛めし』】
「カッカッカ! 皆々様、感動のひとときの後は、本日の頑張りと固い絆を祝う至高のお祝い飯でございますぞーッ!」
大童の姿となった木製しゃもじの付喪神・飯蔵が、大鍋から立ち上る凄まじく芳醇で香ばしい和のお出汁の湯気とともに現れた。
「うわぁぁぁぁ……! ぶちええ匂い! 飯蔵、今日のお祝いご飯は何かいね!?」
ひよりが目を輝かせると、飯蔵が誇らしげに髭を揺らし、大鍋の重厚な蓋をパッと開けた。
「本日の祝い飯は! ひより様の故郷・瀬戸内呉の伝統が誇る至高のご馳走!『呉風・鯛めし(出汁炊き込みご飯)』でございますぞ!!」
大きな鍋の中で、ふっくらとお米と一緒に炊き上げられていたのは、瀬戸内産の新鮮な「真鯛」が丸ごと一尾! 事前に炭火で表面を香ばしく焼き上げられた鯛から、旨味たっぷりの脂とお出汁がお米の一粒一粒を中心にまで染み込み、黄金色に輝いている。上には鮮やかな緑の三つ葉と、刻んだ生姜の千切りが美しく散らされていた。
「鯛めし……!? お魚のご飯だばいね! 香ばしい出汁の匂いがたまらんだばい!」 匂いに引き寄せられて、部屋の外にいた石工頭のダン吉や大工頭の源造も顔を出した。
「カッカッカ! 飯蔵特製のほぐし身でお取り分けいたしますぞ!」
飯蔵が大きなしゃもじで香ばしく焼けた鯛の身をふんわりとほぐし、お出汁の染み込んだご飯と混ぜ合わせ、大鉢へ盛り付けた。
「さあ、ミミ殿! ナナ殿! 召し上がれ!」
「「いただきますやき!」」
ミミとナナが、同時にハシ(フォーク)を取って鯛めしを口に運んだ。
モグモグ……。
次の瞬間、二人の大きな猫耳がピンと立ち、瞳がパッと見開かれた!
「う……う美味いがやきーーーッ!! なんやきこの香ばしさと旨味はぁぁぁっ!?」
一口噛むと、炭火で焼かれた鯛の皮の香ばしさと、ふっくらとした身の甘みが口いっぱいに広がる! 昆布と鰹で取った上品な一番出汁が染み込んだご飯が、モチモチとした食感で噛むたびに深い旨味を溢れさせるのだ!
「美味しいやき……! お魚のご飯……すごくすごく美味しいやき……!」 薄青色のリボンをつけたナナも、夢中になってフォークを動かし、大きな口で鯛めしを頬張った。
「う〜〜ん! これこれ! 呉の鯛めしは、鯛の香ばしいお出汁がお米に染み込んでぶち美味しいんよ!」 ひよりもうれしそうに呉弁で目を細め、鯛めしを味わう。
「美味い……! 焼き鯛の旨味がご飯の芯まで染み渡っておるだばい!」 ダン吉も源造も夢中になって大鉢をかかえ、一気におかわりをかき込んだ。
「ミミちゃんの頑張りと、ナナちゃんの笑顔に……乾杯じゃね!」
「「「乾杯〜〜っ!!」」」
美味しい鯛めしの湯気と温かな笑顔に包まれ、ポルトーの夜はどこまでも優しく更けていったのだった。
【PM 09:30 | 宿屋「海猫亭」・ひよりの日記】
賑やかなお祝いの夕食が終わり、ミミからのプレゼントの薄青色のリボンを枕元に大切に置いたナナは、ミミと手を繋いだまま、満ち足りた可愛い寝顔で気持ちよさそうに眠りについていた。
ひよりは宿屋の机に向かい、高級生漉き和紙と松煙墨を取り出した。 膝の上では、朱色と黄色のモコモコカバーを着たトタン湯たんぽの『ぬくもり』が、ポカポカとした優しい熱でひよりの膝を温めてくれている。
ひよりは、今日一日の一生懸命なミミの姿と、ナナの輝かしい笑顔を思い浮かべながら、故郷のパパとママへ向けて、心を込めて日記を書き始めた。
【天照ひよりの異世界冒険日記〜ミミちゃんの初めてのお使いと鯛めし〜】
パパ、ママへ。
今日ね、ミミちゃんがナナちゃんのお薬代を稼ぐために、一人でFランクの「真珠貝拾い」のお仕事に挑戦したんよ!
うちは心配で心配で、付喪神みんなで変装して陰から尾行したんじゃけどね…… ミミちゃん、短剣の手入れも言教えた通りにやっとって、ぶち立派に作業しとったよ。
途中で「歌う迷子貝」が出現して大騒ぎになったけど、みんなで力を合わせて無事にお仕事を完了できたんよ。
ミミちゃんね、自分で稼いだお金で、ナナちゃんに綺麗な「薄青色のリボン」をプレゼントしたんよ。リボンをつけたナナちゃんが「ぶち嬉しいやき!」って笑ってね、二人が抱き合って喜んどる姿を見て、うちは涙が止まらんだわ。
夜には、飯蔵が瀬戸内の「鯛めし」を作ってくれてね。香ばしい鯛のお出汁が染みたご飯を、みんなで「美味しい美味しい」言いながら食べたよ。
ミミちゃんもナナちゃんも、ほんまに自慢の妹たちじゃよ。 これからも、この温かい家族と仲間たちを、うちが全力で守っていくけぇね!
ひよりより
日記を書き終えたひよりは、そっとペンを置き、窓の外に広がるポルトーの夜空を見つめた。
満天の星空の下、静かな波音とともに風が吹き抜けていく。 ひより、ミミ、ナナ、そして八百万の付喪神たち。
温かな絆と笑顔を重さねながら、彼女たちの優しく愉快な異世界スローライフは、明日もどこまでも続いていくのであった。




